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三年寝太郎、夢もうつつも夢ならば

エッセイ
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再会

「…起きて下さい。起きてって。」肩を揺すられ、目が覚めました。

(なに?添乗員サン?)「ハイ。何か?」

「何かじゃないよ!ったくいい加減に起きろよ!いつまで寝てんだよ。このボンクラめ。ほっといたら、三年ぐらい寝てんじゃないか?悠長な話だ。世間様から取り残されてしまうぞ。」

(なんだ?こんなに口が悪かったっけ?“あの”添乗員だよな?)
「添乗員サンですよね?」

「なんだ“テンジョウイン”って?何不思議そうな顔してんだよ?もう忘れたのか?俺だよさっき祠で会ったろ?寝太郎だよ。お前に会いに来たんだよ。」
(?)
「三年間寝てて目が覚めたら丁度お前が来たんだ。そうそう、俺、良い事思いついたんだ。
世の為人の為になること思いついたんだ。忙しくなるぞ。
おい!なにボーっとしてんだ?俺を手伝うんだよ。
そのために来たんだろ?違うのか?
じゃあ何しに来たんだ?
手伝わないなら目障りだ。邪魔なんだよ。
はぁ~。なんとか言ったらどうだい?どんくさい野郎だな?」

添乗員に寝太郎が憑りついているのかよく分からないけど、えらく腹の立つ野郎に間違いはありませんでした。
上からの物言い、自信過剰からのうぬぼれ、身勝手で自己中心的で、周囲を振り回して、急かすだけ急かして知らん顔。そんなヤツ。

黙って聞いてりゃ一方的にベラベラとこの野郎。
段々とムカついて思わず吐き捨ててしまいました。

「なんだ⁉おまえは!」

「ん?今の“おまえ”だよ。気付いてないのか?」

寒気で目が覚めました。
到着まであと1時間余りの貸切車内は皆眠っているのか静かでした。

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夢もうつつも夢ならば

それからは目を閉じるのが何か不安で、車窓に映る自分をボーっと見て過ごしました。

(これ自分の顔だよね。こんな顔してたっけ?なんか歪んで見えるな。)

そして実際の添乗員サンは車両デッキで携帯電話で話しながら、何やらひたすら頭を下げています。(やっぱり寝太郎じゃ無いか?しかし、要領悪そうだな。大丈夫か?)

後味の悪い夢を見た余韻を振り払おうと、普段気にも留めないことを無理に拾ってみたりしているうちに、無事帰ってきました。

駅のコンコースで社長のシメの一声。

「まあ、何はともあれ事故も無く今回の旅行を終えることができました。お疲れ様でした。
じゃあ本日はココで解散。皆さん気を付けて。」
「ありがとうございました。」

他人の気がしなくなっていた添乗員サンにもお礼を。

「寝太郎神社案内してくれてありがとう。」

「こちらこそお世話になりました。至らぬ点が多く申し訳ありませんでした。また次回、ご旅行の際には是非、当社を御贔屓に。よろしくお願いいたします。」
満点の返答が。やるじゃん。

「こういう謙虚さが大切なんだよ。ボンクラめ。」

はっと振り返ると、添乗員の姿も既に有りませんでした。

己を行うに恥あり

「あれっ?ねこまたぎさん、もう帰っちゃうんですか?ちょうどいい時間だし軽く飯食っていきません?何人か行くって言ってますし?ねぇ行きましょうよ?」

ツルでした。何となくまだ夢の中にいるような違和感があったので行くことにしました。

「そういえば部長は?」
「部長っスか?さすがに“メートル”上がり過ぎちゃって、“グロッキー”で“バタンキュー”なんで帰るって言ってましたよ?ひゃはは!」
「おまえ、それ気に入ってんね。」
「面白いじゃないっすか?何言ってんだか分かんないけど。ブフフッ。」

「そう。じゃあ、何言ってんだか分かんないついでに聞いてもいいかな?」
「なんです?よく分かんないけど。」

「俺って、嫌な奴かな?えーと、例えばエラそうで、うぬぼれてて無神経でって。」

「そんなことないっすよ!なんでそんな風に思ってんすか?そんな人じゃないっしょ~。」

「じゃあさ、俺っていい奴かな?」

「えっ、どうしたんすか?急にマジ話っすか?う~ん。最悪な野郎っすね。たぶん。ひゃはは!あっウソウソ!冗談っスよ!ジョーダン。もう勘弁して下さいよ。ねこまたぎさんは、いい奴。いや、いいひとっス。ひゃはは!なんかあったんスか?」

「イヤ、何でもない。」
「あらっ?グラス空いてますよ。同じのでイイっスか?すいませ~ん!オネエさん、おかわり~!」

ありがとうツル。こんな事聞いて真面目に答えられる状況じゃないしね。
すまない、すまない。

そういえば、昔こんな風に部長と飲んだ時に
『おまえと仕事をしていると時々息が詰まる』って言われた事を思い出しました。

その時は、今のツルと一緒で(何言ってんだ?この人?)って感じでスルーしてました。
が、今その意味がなんとなく分かったような気がしました。

部長はちゃんと観ていて、忠告してくれたんだと。

引くことも肝心、そんな切羽詰まったスピードじゃ、いつか足元をすくわれるって。

そうか。やっぱり、ただの宴会部長じゃなかったか。
ツル君、先に帰るよ。お代置いておくよ。足りない分は出しといて。お疲れさん。

覚めなば夢もうつつと知り

訳の分からないまま、あっという間に終わった感のある旅行でした。
思い返せば、自己反省を促された非日常、そんな奇妙な時間でした。

しかし、わかりやすいもので、慣れ親しんだ自分の空間に戻ると、直ぐにいつもの日常に。

(しかしずっと飲んでたな。そっちこそ非日常だよ。)

濃いコーヒーを入れてほっと一息ついて。
徐々に“違和感”が薄れて、平静を取り戻しつつありました。
(まだ時間はあるな。企画書の続きでもするか?)
久しぶりに思考再開です。あれやこれやと考えて。

(よしっ!とっとと終わらせてしまおっか)

しかし…。あらっ、あらら?全然進まない?
それ以前に考えがおぼつかない?さすがに眠いし。
イヤイヤ、もう企画案は通っているから、何だっけ、当日のタイムテーブルと協賛予定企業のリストと…。

「はい。了解しました。えっと、これで全部ですね。はい。ありがとうございます。じゃこちらの方も上と確認致しまして…。不備な部分や不明な点がありましたらご連絡させていただきます。多分、これで大丈夫だとは思いますが。」
「そうですか。ありがとうございました。よろしくお願いします。」

よ~し。終わった。後は参加メンバーに連絡して、一度ミーティングして…。はっ!

 

目が覚めました。夢でした。何も進んでいませんでした。

しかし、取り敢えず少しはまとめておかないと、後でツケが回ってくる…。
小学生の夏休みの宿題じゃあるまいし…。

 

耳鳴りのような高音で再び目が覚めました。

TV放送も終了。あのピーという音でした。スイッチを切るのも面倒で、暫く何も変わらない画面を見つめていました。

もうそんな時間か。何やってんだか。
…“ケンキョ”か。なんか忘れてたな。そういえば。

けど、暫くしたら、忘れていたなって気付いたことを、また忘れるんだろうな。都合よく。

そしてこんな循環から抜け出せないで、繰り返すんだろうなきっと。

もう夢か現実か分かんないようなのはお終い。今はこれでいいさ。
そう、今はこのままの自分で行くしかないし。

きっといつか何かが…。そしたらたぶん…。

抜け出せる…かな?…。

 

今度は、ガタンという揺れとざわめきで目が覚めました。
(ん?また夢の続きか?あれっ?けど、どっかで見たような…?)

「おいでませ。山口へ!」と書かれた幟がはためいていました…。

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