ごめんくさい あっこりゃまたくさい いろはにほへとじゃあーりませんか

エッセイ

「ほら、早よせんと新喜劇始まるよ」
「ちょっと待って待って。」

今日は土曜日。
学校は半ドン。
普段の寄り道もナシ。
わき目も降らずサッサと帰ってきて、昼ご飯を食べながら吉本。

これは常識というか義務。

「ごめんくさい。こりゃまたくさい」
ひひひっ。

「うれしいじゃあ~りませんか!」
ひひひっ。

はぁ~。見た見た。
おっ、そろそろ行かないけん。

「アンタどこ行きよるん?」

「野球しに行く。」

「どこですんの?」

「いつもの下水処理場んとこ。」

「あそこ?処理場のグランド、臭いのによう行くわ。」

「臭いのは別に。処理場のおいちゃんも使ってエエって言うてくれとるし。野球しよったら気にならんし。」

「まぁ、みんながそれでエエんやったらな。臭いけん気ィ付けりや。」

「ほやけん、臭いのはエエって。行ってきます。」

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いいえ私は違いの分かる人

あれから数十年後。
とあるホテルでのワイン試飲会。

「いかがです?この芳醇な香り。
針葉樹の森の中にひっそりと香るカシスを思わせませんか?
加えてやや控えめな黒コショウのスパイシーさがアクセントになっており、そしてふんわりとしたなめし革の香りが全体的な深みを与えています。そう思いませんか?」

「おっ、奇遇ですね。そう思っていたところです。全くもって同感。
私もこのワインの香りの豊かさに感服していたところです。いや素晴らしい。」

そう、私は違いの分かる人に成長した。

この世には様々な「香り」「匂い」が存在し、私達はそれを言葉で表現する。

「いい香り」や「臭い匂い」といった分かりやすくざっくりとした表現だったり、「レモンの香り」、「潮の香り」、「焦げた匂い」など何かに例えたりしてその香りを表現したりする。

複雑な匂いもその表現でどんなものかイメージがつきやすくなるし、その“例え言葉”は我々の想像力を掻き立てより豊かな日常を導き出してくれる。素晴らしい。

えっ?そんなんエエから、さっきのワイン?
ホントに分かってんのかって?

失敬だな。私は違いの分かる人だ。
そんなに疑うなら君も一緒にテイスティングしようではないか?

香りの違いが分かるまで、一杯といわず二杯、三杯と。
今日はワインは浴びるほどある。

さあ飲もうじゃないか。

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いろはにほへとちりぬるを

快晴。暑くもなく寒くもなく。
どれ、意味もなくチョッとご近所をブラブラ。

ありゃ。ココ、駐車場になっとる。っていうか、前何があったっけ?倉庫だっけ?思い出せん。
まあいいか。次の角を左に曲がって路地に入ろっか。ここら辺歩くの随分久しぶり。

あっこの匂い。何だっけ…。なんとなく懐かしいイイ匂い。
キンモクセイ?そうそうキンモクセイ。

この家からか?ふ~ん。
そうかそんな季節か。

何気ない日々の中にもふとこんな瞬間を感じる事がある。
しみじみと感慨に耽れたり、香りと共に想い出が蘇ったり、その想いは人それぞれだろうけど。
芳しい花の匂いは時に何気ない日常を心豊かにしてくれる。

しかし、残念なことにこれらの芳しい「香り」は長くは続かないもの。
そう皆さんご承知の通り、咲き誇る花もいずれは散ってしまう。

いろはにほへと ちりぬるを (色は匂へど 散りぬるを)

とはよく言ったもの。まさに諸行無常。言い得て妙なり。いろは歌。

そしてその香りをそれを享受する我々も然り。
いつも同じ状態ではいられず、日々の暮らしの中移ろっていくもの。

わかよたれそ つねならむ (我が世誰そ 常ならむ)

その香りを喜びとして感じる時もあれば、苦い思いとして記憶してしまったり、別れの香りとして感じ取る時があるかもしれず、定かではない。

それどころか気付かぬうちに我々を取り巻く風景自体が変化することも少なからず。
前述の駐車場のように。

世の浮き沈み、人の移ろい、咲いては散る花の如し。

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うゐのおくやま けふこえて

おっといけない。
敷地外とはいえ、こんな狭い路地で他人様の塀越しに花の香りを嗅いでいては、挙動不審で怪しまれる。

いったんここを離れた方が良さそうだ。

そう、この芳しき花の香りも、どうせいつかは散って消えゆくもの。
ここは潔くキンモクセイの香りを置いて行こう。この刹那を趣深く感じれば良いではないか。

そう、それこそが「詫び・寂び」の境地。
悟りを得るまで精進あるのみ。

さらばだ。
私には行かねばならない所がある。
そう目指すは、最近突如田んぼの真ん中にできたドラッグストア。

徒然なる散策を気取ってみたが、ホントはただのお使い。

目的はトイレットペーパーと芳香剤。

どこや?
あった芳香剤。あらっ?これ全部芳香剤?こんなに?

ラベンダー、フローラル、シトラス。
ん?イノセントシフォン?

いのせんとしふぉん。

ひらがなにしても想像つかん。

アーバンロマンスなにウォーターリボン?

ご当地アイドル?
わけわからん。何でもいいか。

あらっ?こっちもある。
これは洗剤?あ、こっちは柔軟剤か。

ラグジュアリーリラックス、フラワーハーモニー?

お花畑や。
なんだこれは。

せっかくキンモクセイの香りに別れを告げ、修行中だというのに早速のこの体たらく。
お花畑に来てしまうとは。

そう、我々は芳しき花の香りに触れるあの僅か時間を永遠のものにしようと試みたのだ。
あの優雅で心休まる癒しのひと時を人工的に再現したのである。

なんという叡智。素晴らしい。
これならいつでも香りを楽しむことができ、豊かな心で過ごせるというもの。

うゐのおくやま けふこえて (有為の奥山 今日越えて)

そう、無常で有為転変の迷いを乗り越えたのだ。

しかもそれは相手に不快な思いをさせない優しさからなるもの。
そう、それはエチケットと呼ばれ、暗黙の「思いやり」として周知の通り。いや、実に素晴らしい。

結果、あっちはムスクの香り、こっちはラベンダーの香り、すれ違う人からフレッシュシトラス、着ている服からフローラルとイイ匂いに囲まれて暮らすことになった。

まさにバラ色の日々。嗚呼しあわせ。

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あなたこなたにあ~くさくさ

こうして我々はエチケットの旗の下、臭いニオイをごまかしてきた。
そう、せっせせっせと蓋をしてきたのである。

君もせっせと飲んでいるかい?香りの違いは分かってきたかい?
なんとなく?よしよし。
私のように何杯もテイスティングすればもっと明確に分かってくるさ。

さあ飲みたまえ。若者よ。

えっと、何の話だっけ?そうそう、そうやって私達は素晴らしい理想の世界を築き上げた。
品行方正、清廉潔白。

見たまえ。この美しい世界を。ハハハッ。

何?やっぱり私が胡散臭い?

そんな胡散臭いことを生業にしてクサい芝居で乗り切ろうとしてもそうは問屋が卸さない。
いい加減にしとかないと臭い飯を食う羽目になるよだと?

ほほう。言ってくれるじゃないか。若者よ。

ふむ。クサいモノねぇ。
話ついでに、この一般的な共通認識は体感として感じる「匂い」の臭さと、都合の悪いことや愚行、醜聞を比喩する臭さがある。

そっちの話?なんか面倒臭そうって?
ほら、それ。

既にネガティブ。
確かに「~クサい」と付くとなんとなく負のイメージが付きまとう。

考えれば考えるほど辛気臭い。
「真面目に考えすぎ、青臭い。」と言われればそれまでなのだが。

けど考えてくれたまえ。
なぜ「~クサい」という古臭い表現が淘汰されないのか。

なるほど、この表現にはカラクリがある。わかる?

和みをもたらす不思議な効果がある。

一般的に言えば否定的に捉えられがちで、端的に言えば笑えない事象。
真面目にその事象を評価しようものなら、辛辣な言葉が羅列され、ぐうの音も出ないほど批判されるであろう状況を一言で片付け、しかも場の雰囲気を柔和にする。

そう勝手な個人的見解。

チョッと茶化すような、そう「なんとなく批判」とでも言うべきか?
そしてそこには「臭さ」というものに対する共通のイメージがある。
そして誰もが共感できるからその「例え」が成立し、殺伐としがちな人間関係を円滑にする。

どう?あながち間違ってはいないような。あっ、しかし全てが円満にとは限らない。

先述の通り、私などは例外かもしれない。
そう自他共に認める違いの分かる人、すなわち繊細、ナイーブな人だからだ。

そんな私を厚顔無恥な人物だと思い込み、
「所詮、田舎臭いヤツだべ」などという輩がいる。

残念だ。
当然、私は傷つき落ち込むのである。

何?嘘臭いうえに酒臭い?
さては、もう酔っぱらってるんじゃないかって?
笑止。
そもそも酔っぱらってしまったら香りの判別など到底無理。
論外だ。

しかし、逆に思慮分別のつかないほど酔っぱらってしまえば、臭さも関係ないってことだ。
臭さから逃れるためには臭さの方を何とかするのではなく、クサいと感じている我がを何とかするという選択肢もあるわけだ。

分かりやすい所作は「鼻をつまむ」ことだろう。
それから考慮すると酔って自ら脳を麻痺させ、臭さを感じさせなくするというのはなんと非効率的でな自虐的回避か。アナーキー・イン・ザ・UK。

知ってる?あっ知らない。
何?ワインのボトルが空いた?
結構。
どれ、次の1本をチョイスして来よう。
いいからいいから。君は座っていたまえ。

よいしょっと。ではチョッとごめんくださいよ。

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奇跡のバランス

「ごめんくさい。あっこりゃまたくさい。」
なんて。ハハッ。
…。ワイン取ってきましたよ。次の1本はこれにしましょう。

えっ?何ですかソレって?ワインですよ。ワイン。
そっちじゃない?あ~さっきのギャグ?

そっか。知らないか?チャーリー浜知ってる?それも知らない。
まあそりゃそうか。新喜劇にいた人。面白かったんですよ。
で、さっきのがそのチャーリー浜師匠の代表的なギャグ。

まあいいや。で何の話でしたっけ?そう、「臭い」って話でしたね。
あっちょうどいい。「臭い」繋がりで。

実はこのギャグには深い話があってね。

黒縁メガネにちょび髭。キザなキャラでギャグを放つチャーリー浜師匠。
舞台のイメージとは裏腹に破天荒な一面がある方で。

家で酒を飲みながら鍋を食べていた時、酔っぱらってトイレへ行く際に足をガスコンロの栓に引っ掛かけて外してしまったって。そしてそのままガスが漏れて、意識不明になって入院したことがあるそうで。

一命は取り留めたものの、復帰後の舞台では、後遺症のため挨拶の言葉がまともに言えなかったみたいでね。

この“芸人”としての失態に、自暴自棄になってさらに酒を飲み、二日酔いで立った翌日の舞台で「ごめんください」を「ごめんくさい」と言い間違えてしまったのが、このギャグのきっかけになったんだって。

その後、そのギャグのおかげでチャーリー浜師匠、大ブレイク。全国的にも活躍するように。

ホントに何がどう転ぶかなんて分からないもの。
絶望の淵からの逆転。人間万事塞翁が馬。

この「くさい」という“負の”言葉。しかもギリギリの状況で、ついうっかり発した「くさい」が皮肉なことに大爆笑を誘う一発ギャグに転嫁するとは、まさに奇跡のバランス。

ね。「ごめんくさい」のギャグにこんな裏話があったんですよ。

まあ知らずに笑ってる我々の図太さを嘆かわしいと思うか?
いやそれとも、実は本来の我々は下世話なもので。その根源は何ら変わっっちゃいなかったという、そのしたたかさを讃えるべきなのか?

君はどう思う?若者よ。

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あさきゆめみし ゑひもせす

いろはにほへと ちりぬるをにかこつけて「におい」と「臭さ」について考えてはみたものの、
いろは歌の末句

あさきゆめみし ゑひもせす (浅き夢見じ 酔ひもせず)

これだけは我々には到達できない究極の状態なのは間違いない。もうこりゃ仙人。

「悟りの世界に至れば、もはや儚い夢を見ることなく、現象の仮相の世界に酔いしれることもない安らかな心境である。」という意味。

悟りの世界では臭いとか臭くないとか超越してしまい、どうでも良いことになるというコトか?
そんなことは取るに足らないこと何も動ずるでないと。

無理無理。
この煩悩と欲と誘惑にまみれた不浄な世で、悟りなど開けるワケがない。
浮世離れどころか目の前の出来事に一喜一憂。どっぷり俗世。

しかも「浅き夢見じ 酔ひもせず」とな?
安らかな心境で酔いしれることもないと?

逆や逆。
酔っぱらわんとやっとられんのじゃ。悪いけど。
もっと言えば、酔っぱらった方がクサいとか匂いも分からなくなって好都合。

しかし、常に酔っぱらっているわけにもいかず。言わずもがな。

結局のところ臭さとは縁が切れず、酔いがさめれば、散っていたニオイが戻ってくるわけ。
「いろはにほへと ちりぬるを (色は匂へど 散りぬるを)」の逆バージョン。
これもまた諸行無常。

そう、現実としては悟りの境地など到達できるわけではなく、ベロベロに酔っぱらって臭さを感じなくするか、臭さを感じないほど何かに夢中になるかである。
とは言っても、年老いていく身の上で、我を忘れるほど熱中できるものなど皆無に等しく。

そこで折衷案として思いついたのがワインのテイスティングなのだよ。
香り、匂いをしっかり楽しみながらアルコールを摂取、疲れた心を浄化しゅる。
まさに大人の嗜好の極みれはないか?

なぬ?呂律が回ってないと?しつれーらな。

まーあれ。アレよ。子供の頃の方がひたむきに熱中できるモンがあって、ヒック、周りのことなんか気にもならなかったな。
純粋っていうか、一心不乱っつーかね。
そう。もうある意味悟ってたのかね?ヒック。

年を取れば取るほど、無駄に要らんモンばっかり身についちゃってさぁ、勝手に身を重くしてたんじゃね?
な~んかそんな気がする。

はぁ~。眠たくなってきた。

しょれはしょうと違いは分かるようになったのか?
わらしは何にも分かりましぇ~ん。酔っぱらっちったよ~。ハハハ。

チョッと休憩。休ませていただきますよっと。
じゃあごめんくさい。へへっ。

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サヨナラホームラン

カキーン。

「よっしゃ!レフトフライ。打ち取った。オッケーオッケー。」
「アッ落とした!」

「うっそ~?なんで? なんで取れんの?」
「あ~あ。サヨナラやん。負けてしもたやん。ガックシやな。」

「何しよん、アイツ。どんくさ~。またやん?」
「まぁしゃーないって」
「次からアイツ外す?」
「そこまでせんでええやん。外したら9人揃わんやん?試合にならんわ。」

 

「そろそろ時間やぞ!もう今日は終わり。ほら早よせんと、グランドのカギ閉めるぞ。」

「あっ、おいちゃん来た。」
「もうそんな時間?早っ!」

「ほな、帰ろうや。今日はもうええやん?なっ?オマエももう落ち込むなって。なっ?」
「ほやほや。もう帰ろうで。」

 

「オイ!早よせんと。カギ閉めるぞ。…。ん?暗いなオマエ?どした?」

「おいちゃん。またエラーした。今度こそ外されるかもしれん。」
「そうか。そりゃ困ったな。」
「…。」
「悔しいのう?」
「…うん。」

「…。ちょっとおいちゃんが話をしてもエエか?」
「…?」

「エエか。よう聞きや。
実はここは夢の世界なんよ。おまえは今、夢の中におるんじゃ。
酔うて浮世の煩わしさや虚無感から逃れて来とるんじゃ。子供の姿でな。

気にすな気にすな。そういう時間も必要。

それに、『どんくさいヤツ』言われて悔しくて、これまでおまえが頑張ってきたこともちゃんと知っとる。
いいことあったしも悪いこともあったな。

そして辿り着いた無常。ほんで、未来永劫ではない存在。

そりゃ飲まなやっとられん。
ただ、いつまでも此処におられても困るんよ。」

「…。」

「カギ閉めんといかん。ここじゃ、ワシはそういう係なんじゃ。」

「そうやったんやな。逃げてきた夢の中で久々に『どんくさいヤツ』言われて思い出してしもた。」

「…。これからは『いろは歌』の折り返しやな。」

「…?」

「もう薄々分かっとるやろ?また山越えて行かんと。無常やと分かっとってもや。」

「その先には?」

「散ることのない“オマエの花”が咲いとる。」

「ヤバっ!なんそのオチ?クサッ。おいちゃん似合わんて。ハハッ。
…ちなみにその花ほちゃんと匂う?」

「もちろん。
ドン臭くて、泥臭くて、青臭くて。そう、人間臭くてかなわんらしいわ。」

「そんだけ臭かったら『向かうところ敵なし』やん。逆転サヨナラホームランや。」

「そうやな。サヨナラホームランやな…。

さあもう閉めるで。もう帰りや。」

「うん分かった。…そういえばおいちゃん誰かに似てるな?」

「ん?そう?勘違いじゃあ~りませんか?」

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