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パー券加藤、チョッパー鈴木、そして儂

エッセイ
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踊らにゃ そんそん

ここに登場する人物はすべて実在しますが、諸事情、あるいはご都合により仮名とさせて頂いております。あしからず。

 

時はバブル成長期。
まさに今から狂喜乱舞の大騒ぎに突入しようかという1986年。

「ねぇねぇ今度の土曜日ヒマしてる?良かったらダンパがあるんだけど行かない?
ちょうどチケット持ってるし。」
「可愛い子来るし、パーティー仕切ってる空間プロデューサーも来るし、もしかしてコネができたりして。アパレル直結で、オイシイかもよ。ねぇ、とりあえず行ってみようよ?どう?」

軽っ!コイツか。ダンスパーティーや合同コンパばっかりやってる“パー券加藤”っちゅうのは。

講義を受けるわけでもなく、学内をウロウロし、いつもキメて来たDCブランドのジャケットの内ポケットにはあちらこちらの何種類ものパー券がどっさり仕込まれていて、たまに学食の一角を占領し、よその女子短大生をはべらし、“おめぇクラブと勘違いしてねぇ”感半端ない、ナイスガイは。そうか。チミか。

異常な好景気、高騰する地価、
株価上昇、にわか成金、
ボディコンお立ち台、アッシー。

どんどんヒートアップするバブル景気。ほとんどは江戸の方の話。しかしこんな地方都市にも少なからず影響はありました。確かに景気は良かった記憶があります。

そして、こんな風に江戸のまねしてイベントで小銭どころか、大金を稼ぐ“悪徳くされ学生”然り。これがフツーの感覚だったとは恐ろしい時代。

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DO YOU REMEMBER ME?

ふーん。そんなのあるんだ。まぁ、カンケーないし。あっそうそうスイマセン、Aランチ1つで。ふ~。よし、飯食って、昼から講義1限出て、今日はバイトか~。

そんな事を考えていた矢先、背後からパー券加藤接近。そしてこともあろうか話しかけてきました。

「あっ、君、昼からの講義一緒の人だよね?週末、良かったらダンパ行かない?へへっ。」

ハァ⁉  儂に言っておるのか?  不躾な。

その時ふと、頭の中にラモーンズの「ドゥ・ユー・リメンバー・ロックンロール・レイディオ」が流れ、血が逆流し始め…。
ここ、ピストルズじゃないところがミソなんですが…。

彼を強く一瞥する事で、何とか暴れ出す衝動を抑えたものの、Aランチのお盆が小刻みに震えていたのを見たのか、パー券加藤は「じ、じゃぁ、ま、また次回ね。」そういって学食内の自分のテリトリーに帰っていきました。

そうです。皆が皆、チャラついていたわけではなく、そうではない苦学生も多数いました。

まあ学内という所、それだけの人数が集まれば自ずと集団になり、やがて派閥のようになるのは社会的で当然のことなんでしょう。

何不自由なく、年中浮つき何も考えてないお調子者派。今でいう“チャラ男”パー券加藤。

かたや年中金欠、要領悪く、なんか波に乗り切れない中途半端派。それが儂。

そして侮れないのが少数派。囚われることがない為フリーで個性的。

食事はチキンラーメンをそのままかじり、ゴムの伸び切ったユルユルのジャージを着用し、冬でもサンダル、挙句に栄養失調が原因の結核に罹り、休学した学生。
ヘルメットにサングラス、そしてマスクをして素性を隠して、細々と活動を継続している、学生運動の頃の残党など色々なタイプがいました。

そんな中に居たのが鈴木君。ほぼ話したことがなく、特に誰かと仲がいいとかの情報も無く、目立たず地味。ちょうどロバートの馬場ちゃんをもっと暗くした感じと言えばそうかも。
得体が知れず、一線を画す存在でした。

そして、彼の素性がわかるのはしばらく経ってからの事でした。

レッツゴー三バカ

この地方都市よりはるか田舎の出身者で構成された儂らが中途半端派。

類は友を呼ぶ、同類相憐れむとでも言いましょうか、似たような人種が更に分派しておりました。
パンクロックとそのムーヴメントに洗脳され、3コードパンクバンドをしていた儂。
1浪していた間ギター禁止状態だった高浜、レコードショップの店員のバイトでどっぷりハマってしまい、レコードコレクターになってしまった中川、など音楽に振り回されていた連中が肩を寄せ合っておりました。

それぞれ出身地が違うため、それぞれが学校周辺で一人暮らし。

講義をサボったり、ヒマな時はお決まりの様に、誰かの所に溜まっていました。

「ランディローズ、やっぱカッコイイわ。」
「ありゃぁ~クラッシックじゃねえの?」
「ただ速く弾いてるだけじゃん?そりゃテクは凄いと思うけど。」
「そんな事言ってたらクラプトンだってそうだってことになるし。」
「ちゃうちゃう。結局、オマエら、聴き込みが足りへんねん。レコードすり減るまで聴き込まなあかんねん。」
「ケッ、エラそうにメタルかぶれが。」
「アホの3コードパンクスに言われたないわ。」
安い合成ウイスキーを煽り、深夜までロック談義に花を咲かせておりました。

当時を振り返ってみるとこんな一見無駄に見える時間を費やしていたことが貴重で、本当のゆるさだったような気がしたりして。

そして、こんな何の変哲もない日々がずっと続くかと思うと、少しだけの不安と危機感を感じるようになってきたある日。ここも相変わらず何も変わらない学食内。パー券加藤は今日は一人でせっせと営業活動。

そしてこちらも変わらずAランチ。そしていつもの三バカ大将。

能ある鷹は爪隠すってば。やっぱり。

「ウチのクラスに鈴木君っておるやん?」
「えっ?居たっけ?」
「いるよ。あの地味な子。」「で?何?」「彼、JAZZ研で、ベース弾いてんねんて。
しかもめっちゃ上手いらしいで。」

「それだったらオマエ声かければイイじゃん?バンド組みたいって言ってたし。」
「う~ん。そやけどな、なんて話しかけよ?アイツ誰かと喋ってるの見たことある?
何か怖いわ~。」子供か?オマエの方が怖いわ。

とりあえず、只今JAZZ研の練習で、鈴木君も参加しているとの事で、見に行くことに。
「お⁉やってるやってる。意外と上手いじゃん?」
「なんで上からやねん?」「まあまあ。鈴木君は?どこ?」

パギャペキッ!ボンボボン。
パギャ、ペキッ、ボボンバキン。

何?チョッパー?チョッパーで弾いてるし。めちゃめちゃ上手い!

しかもファンク系のジャズ!

あまり知識の無いジャンルでしたが、レベルの高さは明白でした。

まるで別人とはよく言ったもので、自分達が勝手に創り上げたイメージ、思い込みの無意味さを痛感させられました。鈴木君のトレードマーク、チェック柄のネルシャツとケミカルウォッシュのジーンズを除いては。

彼の躍動する姿を目の当たりにして、「ヘイ!バンド組まない?」なんて言葉すら浮かばず、すごすごと逃げるようにその場を後にしました。そう、我々の薄っぺらな情熱はまさに“泡”となって弾けたのでした。

それからというもの鈴木君の重大な秘密を握ってしまったかのような勘違いにとらわれ、妙な親近感を持ってしまった我ら三バカ大将。したり顔で、馴れ馴れしく声を掛けてみたりしたのですが、そんな覗き見をされていたとは露知らずの鈴木君、益々我らを気味悪がり、避けていくのでした。

30年後。我々もそれぞれの道へ進み、その交友もありがちな自然消滅、音信不通。

今となっては、早いような遅いような。夢のような嘘のような。

『ダンパで踊った。』 踊っていたのではなく、踊らされていた?
『なんにも無かった。』 イイことが無かったのではなく、悪いことは無かったと感謝できなかった?
時代の流れに乗らなかったのではなく、乗れなかった。

全てが泡となって弾けてしまった後では、やっぱり言い訳か…。みっともないけど。

「イヤイヤ、すべてじゃないよ。」
泡の向こうで声が聞こえてきました。

「っていうか、何の話してんの?」
もしかして鈴木君?

「思い出話?へ~そうなの。ヒマだね。」
そうだね。ダサいよね。けどやっと話せたね。たぶんこれも“泡沫の夢”だろうけど。

「そんなことより聴いてよ。ほら、また上達したよ。」
パギャ、ペキッ、ボボンボン。

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