ワルツとは?
「三拍子が一般的な円舞曲。テンポの良い淡々とした舞曲、及びそれに合わせて踊るダンスを言う」
ずんちゃっちゃ、ずんちゃっちゃ。
フランス語では valse(ヴァルス)、ドイツ語では Walzer(ヴァルツァー)と呼ばれています。
……ふ~ん。それより「ずんずんちゃ」でもええかな?
いやそう、ここで問題なのは三拍子。しかも音楽の三拍子とは違った意味合いの三拍子。
例えば、走・攻・守揃った名選手を「三拍子そろったエエやつや」とか言う時の…。
そう、それそれ。三つの条件が揃っているという意味の。
今回はそんな三拍子についてのお話でございます。
それはある日のずんちゃっちゃ
ヤバい。朝飯ちゃんと食べておけば良かった。まさかこんなに腹が減るとは。
しかも忙しい上に人手不足。昼飯食う時間もあんまりないけど食っとかないとマジヤバい。
とりあえずココ入るか?
「いらっしゃいませ。空いてる席どうぞ。」
「直ぐにできるモンって何がありますか?」
「そうですね。日替わり定食でしたら、若干早いかも?」若干?まあいいか選んでる余裕もないし。
「じゃあ、日替わり1つ下さい。あっ、ちょっと待って。ちなみに今日はおかず何ですか?」
「豚の生姜焼きですが、よろしかったですか?」
「ハイ。大丈夫です。お願いします。」
あぶねー。日替わりの内容聞かずに頼むとは腹減りすぎだろ。
苦手な人参とか入ってたらテンション下がるし。
しかし、この年になってまだ、人参苦手ってのもダサいかも。
まあ何はともあれ豚の生姜…ドンッ⁉
「お待たせしました。日替わりです。」⁉早っ。マジか。
有り難い。よっしゃ!早速いただきます。
……ウマっ。悶絶絶妙な味。我ながらナイスチョイス!箸が止まりまへんわ。
……ふぅ~食った食った。助かった。生き返ったわい。
「ごちそうさん。おいくらですかね?」
「600円です。」エッ⁉安っ、マジで?
「ハイ400円のお返し。あっ、いらっしゃいませ。空いてる席どうぞ。」
何も考えずに飛び込みで入ったとはいえ、ラッキー。「早い・安い・旨い」三拍子揃った名店発見!
幸先いいねぇ。どうやら運が向いてきたか?ハハハッ
早い・安い・旨い
さて、話を戻しましょう。
そうです。これぞ今回のテーマ『早い・安い・旨い』です。
近年あまり言われなくなったこの三拍子。もう死語なんでしょうか?久しく聞いてない気がして。
少なくとも私が幼少期、周りの大人たちはこれを基準として店の評価をしていたように思います。
家を出て二つ目の角を曲がればうどん屋、その隣りのクリーニング屋を挟んで寿司屋があって、その斜め前には定食屋、はたまたその三つ目、いや四つ向こうかな?焼き鳥屋があってと、当時は小さいながらも色んなお店が点在していました。
そしてそれぞれにクセ…いや、個性があって、それもその店の良し悪しを決める基準でもありました。
しかしそれは一方で、選別する側の個人的な主観によるもの、そう“そいつの匙加減”という側面を持っており、公平かつ公正な基準には該当しないものでした。
そこで広く一般的に皆が納得でき、尚且つ端的で正確な基準が求められるようになりました。
こうして生まれたのが、『早い・安い・旨い』という基準だと、焼き鳥屋で酔っぱらったオッサンが教えてくれたのです。んなワケないやろ。
それから数十年後。
今やファミリーレストラン、ファーストフードや居酒屋チェーン店などが軒を連ね、しのぎを削る時代。
さらに大型商業施設がのどかな郊外に突如現れ、都市開発で駅ビルが立て替えられ、目まぐるしく変わる街並み。かつて賑わった商店街はシャッター街になり、馴染みの定食屋や中華料理屋などは、一つまた一つと姿を消しました。
代わってそれらのショッピングモールにはファミリーレストランなどが進出。
和洋中と何でも頼め、日本中どこでも同じ味、同じサービスの、ある意味「究極の」定食屋が定着しました。
『早い・安い・旨い』。 この三要素は、言い換えれば「提供時間・価格・味」のランクを表しています。
もちろん最上級ランクだと信じて疑う余地もありません。
…と少なくともワシは思う。いや、そう思いたいんじゃ。
そして、この三要素のランクにはそれぞれ対をなす反対語が存在するために、最低ランクも存在します。
そう、もうお分かりの通り、『遅い・高い・マズい』ですね。正解。
となるとこの“三拍子”には数通りの組み合わせが存在することになります。
組合せについての考察
「ちょっと~。アタシの頼んだパスタ遅くない?忘れてんじゃないかしら?」
「確かに結構かかってるね。」
「何やってんのかしら、まったく。」
たまにこんな事、あります。特に時間が無い場合に限って。そりゃあイライラもします。
ちなみに、この待ち時間の限界は人によって千差万別ですが、半数以上の人が10分~15分が限界だそうです。
まぁ、これに“空腹”という欲求が加われば、さらに苛立つのは必至。
「スミマセン。大変お待たせしました。」
ようやく来ました。ハイ。お待ちしておりました。
あらっ!さすが評判通り。美味しいですわ。
しかもこの味とボリューム。加えてリーズナブルなお値段。とてもお得~!大変満足。
そう、『遅い・安い・旨い』の一例です。う~ん、まだ大丈夫、許容範囲内ですかね。
人によっては、料理が遅れていたことなど忘却の彼方、
「おいしゅうございました。また寄らせていただきますわ。」となったりするかもしれません。
やっぱりまだ、大丈夫。
このように“三拍子”の組み合わせは数えたところ、8つの状況が想定されます。
「おっ!早いね。もう来たよ。
しかもほら、この値段見てよ。安いしね。いいんじゃない?
早速いただきます。
……マズっ!不味くね?これ?」
あ~ぁ残念。『早い・安い・マズい』ですね。これも微妙。
お金が無くて、時間も無いという2大要素が揃わない限り、二度と来ないと考察されます。
また、これに類似したパターンでは『遅い・安い・マズい』。
よっぽどお金が無い時以外はご来店の可能性はゼロでしょう。
逆のパターン『早い・高い・旨い』。
「早く出てくるし、ウマいし、言うこたぁねえけど何しろ高けぇや。
宝くじ当てるか、万馬券でも取らねぇと、店の敷居もまたげねぇや。
まぁこちとら縁のない店だよ。」
どうやらお金がたんまりある時しか味わえないようでして。
このように他のパターンも皆さんご体験済みだったりするのではないでしょうか?
そして何を隠そう、かく言う私も何度も痛い目に遭いました。
その原因は一体何処にあるのでしょうか?
大盛り一丁
「ハイ。チーズ」カシャッ!
「上手く撮れたかな?」
「現像出してみないとわかんないけど、バッチグーだよ。たぶん。」
「あっそうそう、後何枚撮れる?」
「え~っとね、後3枚しか残ってないけど、フィルムちゃんと買ってあるから大丈夫。」
「さすが、準備万端、やるね。」「ハハハハハ~」
大丈夫。血迷ってはいませんよ。
今や時代は令和。右を見ても左を見てもデジタル化。
皆が皆、個人専用の電話機を持ち歩き、さらに電話機なのに喋らなくても文章で相手に用件などを伝えることができるようになりました。
しかし最も驚くべきは電話機で写真が撮れる、動いているモノが撮れるというコト。
先ほどの昭和の民のようにフィルム入れて、現像に出して2、3日待ってという悠長な時代では無くなりました。撮ったその場で画像が確認できるという、そう、まさにデジタルなのです。
というわけで、なんでんかんでんカシャッ、カシャッ。
「これちょっと、失敗だわ。あんまりカワイく撮れなかった。まあいいか。いつものアプリで盛っちゃえば。」
「あっ、それ最新バージョンが出たんだよ。やってみたら?」
「もっと盛っちゃおうか?」
「盛っちゃえ、盛っちゃえ!」「ハハハハハ」
大盛り一丁出来上がり。
写真を撮ってその場で見れるだけでも感嘆モンやのに、写真加工まで出来んのは、ホンマさぶいぼモンや。
えらいこっちゃ。
ってことは極端な話、曇り空を青空に、昼を夜に変えることも出来るというコト。
美しい人はより美しく、そうでない方はそれなりにという名セリフも今や訂正の余地あり。
そうでない方もさらに美しくとなってしまう訳です。
事実の歪曲、虚偽、捏造。 異議あり。
そして、これらは変化する飲食店でも然り。
出来の悪いお粗末な料理でも、盛って盛って見栄え良く写真加工。
不味いものも、より美味しそうにとなるわけです。
そして、このありえへん偽装の写真に美しい謳い文句を添えれば、過大広告の出来上がり。
さあ寄ってらっしゃい、見てらっしゃい、そんでもって食べてらっしゃい。
かつての単純明快な判断基準に、少なからず影響を与えることになるのです。
原因と結果
「まあ~オサレなカフェ。素敵ね。
……お料理全然来ないけど。
まぁいっか。時間はたっぷりあるし。こうやってお友達とお話してると、気にならないし。
あらっ、アタシったら何頼んでたかしら?あそうそうコレね。
……意外とお値段してたのね。
でもよろしくってよ。オホホ。」
さすが分かる人はちゃんと分かってらっしゃる。素晴らしい。
「あっ皆さん、やっとお待ちかねのお料理が来ましたよ。ではいただきましょうかね?
……あらっ写真のイメージと違って随分ショボいような。
きっと気のせいですわ。要はお味ですもの。ではご賞味っと。
……えっ?美味しくないんですけど。いやそんなハズは?……。
この雰囲気でこのお値段でこんなにクソ不味いなどあり得ませんわ。
……そう今日の私の味覚がおかしいのよ。
だって皆さん美味しそうに召し上がってらっしゃるもの。
何かの間違いだわ。いや誰か間違いだとおっしゃって。お願い。」
そうデジタル時代に合わせた『遅い・高い・マズい』の進化系です。残念ながら。
「加工した写真・美辞麗句・薄い付加価値」
そう、これらの要因が正確な判断を妨げ、敵の思うつぼ。
そして結果、踊らされていたのです。不覚。
よかろう、心得て候。
さあさあ踊り給えとこの“三要素”が奏でるは、異端しかも変拍子のワルツ。
だからワシは踊れない。
いや踊る訳にはいかない。しんどいんじゃ。
Let’s Dance
「いらっしゃい。おっ久しぶりだねぇ。」
「うん。まあね。えっと~、半チャンラーメンね。」
「いっつもそれだね。よく飽きないね。まったく。
ウチゃあね、他にもメニューあんだよ。たまには違うのも食べてみなよ。旨いからさ。」
「分かった分かった。今度食べるよ。
でも今日は半チャンラーメンが食いたくってさ。だから久しぶりに来てやったんだよ。
でなきゃこんな小汚ぇ店来ないよ。」
「ふん、一言余計だよ。はいっ、半チャン一丁ね。」
「おっ相変わらず早いね。でもさ、食べたい時に食べたいものが食べれるのが一番だと思わねぇ?」
「ヘッ。なぁにえらそうに。当たり前だろ、そんなこたぁ。」
「うまいもん食えたら、なんかそう、うれしくって小躍りするって感じ?」
「そんなもんかね?踊り出すほど旨いモンなんてあんのかね?」
「あるって言ってたよ?」
「誰だよ、そんなこと言う酔狂な奴は?」
「この前行った焼き鳥屋で酔っぱらったオッサンが言ってたよ。」
ずんちゃっちゃ、ずんずんちゃ。