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じゅるじゅるじゅんじ

エッセイ

じゅるじゅるじゅんじ

山奥の秘境の銘菓でも、呪いの呪文でもない。

jyuru-jyuruジュンジ

K-POPの人気アイドルでもない。

古い友人の名前である。
もちろん「じゅるじゅる」などというふざけた苗字があるわけではない。
あだ名である。

はなたれこぞう

小さな象ではない。そもそも鼻が垂れていて当然である。
ん?漫談?

違う違う。
鼻水を垂らしている男の子。
または若く経験の浅い者をあざけっていう語である。

ここでは鼻水を垂らした小僧の意味。

そう素晴らしい!さがす!
あっいや、さすが!お察しの通りです。

今回は友人でじゅるじゅるじゅんじな洟垂れ小僧(はなたれこぞう)のお話。

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洟垂れ小僧

それはそうと「はなたれ小僧」。
つい40余年ほど前、はなたれ小僧はあちこちに存在しており、目視で確認できたもの。
早い話がクラスに一人か二人は在籍。鼻水でガビガビに固まった袖口が動かぬ証拠。

奴らの生息地や分布図などは見たためしがないが、はたしてこの令和の世に現存するのだろうか?
竹の子族やテクノカットのように自然淘汰、登録抹消事項なのでは。

確かに、いまどき鼻水を垂らした子供など皆無。
頭に旗を差して走り回る童も然り。
まさに現代は品行方正パラダイス。マジか。

いや待て待て。
小僧の存在以前に「鼻さえ垂らしてない」のならば箸にも棒にも掛からぬぞ。
話にならんバイ。

はなたれ小僧はいずこへ?

独自のルートでリサーチした結果、子供のはなたれは副鼻腔炎(ちくのう症)やアレルギー性鼻炎などが原因らしく、現在では早めの受診、治療や薬の普及でほとんど居なくなったとのこと。

…どうやら懸念は現実のようで。

そりゃあそうだわさ。けどいいことなんじゃねぇ?
衛生的で健康的ならそれに越したこたぁねぇや。

サヨナラはなたれ小僧である。

しかし、ならばこそだ。
そう、ならばこそはなたれ小僧を記憶にとどめている我らは、貴重な時代の目撃者として事実を語り継がねばならないのである。

ごもっとも。承知。

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おいしい給食

さて、じゅるじゅるじゅんじ。

「君は年がら年中はなを垂らしていたので、先ほどの原因と照らし合わすと副鼻腔炎の疑いがありますねぇ。お薬を出しておきますのでしばらく様子を見ましょう。ハイ、お大事に。」

となっていれば妙なあだ名をつけられることもなく、明るく朗らかな少年時代を過ごすことができたのに。

可哀想なことだ。

いやいやそんなセオリー通りではなく、実はじゅんじ、クラスで必ずと言っていいほどいる陽気なお調子者。
しかも意外と凶暴。
良く言えば明るい人気者。
悪く言えばうるさくてガサツ。
ウザいのだ。

そんなじゅんじとゆかいな仲間たちの共同生活の中、事件は起きた。
それは窮屈な学校生活で唯一、一服できる至福の時間、給食の時間だった。

その日は水たまりに薄っすらと氷が張るようなシバレた日。
そして献立は「五目そば」
けっこうけっこう。

こんな寒い日には有り難い。
心も温まる献立だ。

「みなさん手を合わせてください!いただきます。」
「いただきます!」

冷えた体に温かいそば。
身体が温まる。
血行促進。
緊張してこわばっていた筋肉がほぐれる。
いわゆるリラックス。

そしてそれは油断。

だましだまし固まっていたじゅんじの鼻水が緩む。
じゅるじゅると鼻水を啜る。
五目そばの湯気がさらに鼻を刺激する。
啜る鼻水と出る鼻水のバランスが崩れる。

「あっ!」

じゅんじの抑えきれない鼻水がツルーっと一筋、五目そばの中に垂れ落ちた。

瞬間、じゅんじと目が合った。

その日、偶然じゅんじの対面で給食を食べていたのはワシ。
じゅんじの視線が漂い、うろたえているのがすぐ分かった。
どうやら幸いなことにこの班の他のモンは気付いていない。

すぐにじゅんじの目がこう語った。
(誰にも言うなよ。)

そしてここからがじゅんじがじゅんじたる所以。
何事もなかったように食べ続け、五目そばも完食。

一滴の汁も残さず。
何か問題でも?

当時、私はじゅんじが苦手だった。
何かと絡んでくるし、拒絶すればすぐに容赦なくヘッドロックされた。
しかもマジな力任せで。
その苦手なじゅんじの、これはいわば弱みを握ったと言うのでは?

しかし、慈愛に満ちたワシは
「不憫じゃ。分かっておる。誰にも言うまい。」
そう思った。
いや正確には、そう思いたかったのだができなかったと言うべきか。

なぜなら、それまでの互いの愚行が逡巡し、私が善人であることを思いとどめたからである。

実は私は小学校6年間ずっと坊主。
昔は多かったでしょ?
ほっといて。

しかし幼いからといってオシャレに興味がないわけではなく、角刈りに代えてみた事がある。

おっ!カッコええやんけ。西部警察の大門やん。しびぃー。明日は注目の的やわ。

翌日。

「おはよう!」「あっ、先生おはようございます!」
「おっいいやん、その髪型」「あっそうですか?エヘヘ」

じゅんじだ。
「おはよう!」

「…。だははっ!なん、お前演歌歌手になったん?
みちのくひとり旅やん♪ひゃはは~!
タワシやタワシ。笑かすぅ。」

そしてすかさずヘッドロック。

痛い痛い。
心も痛いって。

そう、思い出したぜベイベー。
ココじゃ!今こそ日頃の恨み晴らさでおくべきか。

「こいつ五目そばに鼻水垂らしよって、そのまま食べてしもたがな!汚ったな。
鼻水じゅるじゅるじゅるじゅるじゅんじやわ。」

そう、命名したのはワシじゃよ、ワシ。

よし、これで一矢報いたぞ。
周りのクラスメイトは阿鼻叫喚そして爆笑。
どえらいこっちゃのはず。

どれどれ?
ワォ!みんな知らん顔。
そしてすかさずヘッドロック。

いかん、何を何処でどう間違えた?

ギリギリと締め付けられる頭で考えた。

そうか。じゅんじのキャラは私だけでなく、クラスが周知の事実。
はなが垂れていることも陽気だが粗暴なところも。

鼻水が混ざった五目そばを食ったところで、想定の範囲内ってことか。
そういえば、最近誰もじゅんじのことをイジらなくなっていたのも原因か?
ワシが言うただけ損なのか?

何たる失態。
それまでのクラスの空気を読めなかった私の不徳の致すところ。

いかん。頭が痛い。
ちきしょーギブアップだ。

ふぅ~。まぁええわ。今日はこのへんで勘弁したるわ。

その後私が命名した「じゅるじゅるじゅんじ」のあだ名もさほど定着せず、時折誰かがささやく程度のもの。
“いいね!”は付かなかったのである。

逆に再び頭を丸めた演歌歌手は、アニメの一休さんにちなんで「いっきゅう」とか、はたまた「らっきょ」などというあだ名をつけられ多くのフォロワーが付いた。

めでたしめでたし。

しじゅうごじゅうもじゅるじゅるじゅんじ

休日。
ショッピングモールに来た。

別に買いたいもの、買わなければならぬものなど当然無い。
家に居てもする事がないのである。

ただそれだけ。そう、ひま人。

メガネ屋か。
そうそうこれ。気になってたやつ。

えっと~何これ?+1.5、+2.0?
色々あるな。
あっ、ちょっと待て。これはもしかして度数のことか?
なるほどね。たぶんそうじゃわ。

チョッと掛けてみるか。
+2.0位か?

げっ!クラクラする。
きっついやん、何してくれてんねん!
ほんじゃ、+2.0ほどじゃないってことか。
けどね~。

「いらっしゃいませ!老眼鏡をお探しですか?
老眼鏡でしたら、当店ではお客様の眼を検査させていただいて、ピッタリの老眼鏡をご用意できますが?
ハイ。そうでございます。老眼鏡でもです。ふふっ。」

ご親切にありがとうございます。
でも、ほっといて下さってよろしくってよ。オホホ。

そう。気付けばそんなもののお世話になろうかという年齢になってしまいました。
必然当然時間の問題。

そそくさとメガネ屋を後にし、店員の寄ってこない本屋へ。
かと言って、買いたい本や読みたい本があるわけでもなし、暇つぶしにフラフラしているだけの用無し。

アタタタタ。しかし、肩コリも年々酷くなるしこれぞまさに四十肩?
ものはついでじゃ、肩こり解消の本でも探すか。

いざ健康書籍コーナーへ。その途中。

ん?これは今あれ、テレビであれしてるあれか。
確か次の1万円の。

ふ~ん。

書籍を手に取り、パラパラと。
あるページに目が留まった。

「四十、五十は洟垂れ小僧、六十、七十は働き盛り、九十になって迎えが来たら、百まで待てと追い返せ」

しじゅうごじゅうはじゅるじゅるじゅんじ。

そう、思い出したわけ。奴を。

元気かじゅんじ。
もう何十年も会ってないけど。

太りすぎてないか?ハゲてないか?老眼は?血圧は?
もう、鼻は垂らしてないよな?

これ見て。俺らエラそーになんだかんだ言うても、“洟垂れ小僧”なんやって。
昔のお前と一緒やって。

この人の言う通りかもしれんな。どうやら俺らまだまだやな。

イイも悪いも見方次第。どうとらえるかはその人次第。
さあどうしよ?

まあおかげで、少なくとも前向きにはなるし。
1万円札を見るたびにこの言葉を思い出すやろからな。

ただ、常に財布に1万円札が入っているかは別にして。

…おいじゅんじ、笑うトコやけど。

 

じゅるじゅるじゅんじ

山奥の秘境の銘菓でも、呪いの呪文でもない。

古い友人の名前である。

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