何はともあれ、サーターアンダギーさん
長年の夢であった沖縄旅行。遂に実現しましたよ。やって来ました沖縄。初沖縄、祝沖縄。
ちょいと遅れてしまった新婚旅行。我が伴侶と共にやってまいりました。お待たせしました。メンソーレ。
何しろ全てが初めて、これはこれはサーターアンダギーさんじゃあ~りませんか⁉
見るものすべてが、新鮮新鮮。英語でフレッシュ。素晴らしい気分転換。ゴキゲンだぜ!ベイベー!
そして沖縄といえば、ソーキそば。鼻の穴から麺があふれるまで食い倒してやるぜっ。って違うわ、まずは海でしょ!ビーチでしょ!さあ、行きましょう。英語でレッツゴー!もうええやん。
青い海。広い空。白く輝く砂浜。穏やかに降り注ぐ陽射し。
そんな中に居るだけで、どんどん真っ白になっていく脳ミソ。あっという間に2日が過ぎました。
あぶねーあぶねー。現実に帰れなくなるところでした。そろそろかなって感じで那覇市に戻ってまいりました。そして国際通り周辺へ。ワオワオめっちゃ都会じゃん?
人混みをすり抜け、ノスタルジーだってば
しかしながら、目的は賑やかな国際通りのメインストリートではなく、一本横道へ入った焼き物の通りです。
沖縄特有の焼き物、陶器を取り扱う店が軒を連ねる通りがあるそうなのです。
そうそう、信楽焼とか有田焼とかの類いです。
沖縄だから沖縄焼ってことではなく、それら焼き物を総称して「やちむん」というそうです。
だからその通りも、やちむん通り。
そのやちむん通りのある壺屋という地域は、沖縄戦で被害は受けたものの、最小限で戦火を免れ、沖縄復興の礎となった場所です。よって昔からの路地や家並みが残されている、数少ない場所の一つだそうです。
メインの陶器店の並ぶ通りも風情があるし、のんびりと散策するにはまさにピッタリ。打って付けです。自然とゆるくなってほっこりしてきます。
ひと通り陶器を物色した後、戦火を免れたと言われる路地裏に興味津々だった我々、小路に入り込みました。
まさに古き良き沖縄の住宅街?と言ってもイイのでしょうか?
ツタの絡まる石垣が小路を作り、
オレンジ色の低い屋根瓦が見え隠れして、
家の玄関前の門上にはシーサー。
そして小路の曲がり角には石敢當の石碑。
初めて来たのに、かつて此処に居たかのような懐かしさを覚えます。
そんな郷愁に誘われながら足の向くままブラブラ歩いていると…。
GOD OF YACHIMUN
背後から突然「旅行?」と声を掛けられビクッと振り向くと、見知らぬおいちゃんが一人佇んでおり。
この狭い小路のどっから来たんだ?このおいちゃん。
一瞬困惑する我々を意に介さず、再び「旅行?観光?」
「ええ、まあ観光ですけど。」 「ふ~んここら辺を見に来たの?」 「あっ、そうですね。」
いかにも沖縄のおいちゃんといった感じの濃い顔。そして日焼けした快活な風貌。
見たところ、こざっぱりとした服装で清潔感もある。
肩からショルダーバッグを掛けており、どうやら怪しい人物ではなさそうだが。
突然現れたり、鼻毛が出てるのが気にはなるけど。
それからおいちゃん、このやちむん通りの説明を始めたが暫くして、
「桜、見た?沖縄の桜?」 「まだ咲き残ってるのがあるよ。」
そう言うとついて来いと言わんばかりにスタスタと歩き始めました。
やっぱり怪しいと思いながらも、沖縄の桜もせっかくだから見ておきたいし、半信半疑のまま付いてくことにしました。
季節の頃としては2月半ば。 沖縄では桜はもう散り始める頃なのか。ふむふむ。
そしてこれまた沖縄独特の奇麗なピンク色の桜を眺め、ああ、来て良かったと。
おいちゃんありがとう。イイもの見せてもらいましたよ。 じゃあ、ここいら辺で。
ところがおいちゃん説明が止まりません。え?まさかここからが本領発揮?
我々がとても素直なのに気を良くしたのか、路地を歩きながらずっと解説。
しかし次第に、(待てよ。もしかしたらボランティアの観光案内の人じゃあないかな?)
(けど、そんな腕章とかIDカードみたいなの下げてないし。)
(後でガイド料請求されたりして?)
(それなら最初に言うでしょ!)
我々夫婦は素早くアイコンタクトで会話。やはり怪しさはまだ否めないまま。
けど、まあいいか。ゆっくり行きましょうせっかくだから。
気持ちを切り替えておいちゃんに再び付いて行くことに。
「これシークワーサーの木、これレモングラスの葉っぱ。匂い嗅いでみて。はい。」
それからも小路の側溝を、やちむんの破片でデコレーションしてる事や、石垣の蔦がちょっとやそっとじゃちぎれなくて、かえって石垣が崩れるのを防ぐ位強い事とか、その他諸々と解説して頂きました。
そしておいちゃん唐突に「…。うん。じゃあ」って、おい、またいきなりかい。
登場もハケるのも突然で。おいちゃん、一途にマイペース。
って、「待って!おいちゃんガイド料は?」と聞くべきか聞かざるべきか迷っている中、既においちゃんは向こうへスタスタ。背中を見送りながら、ありがとうございましたとそっと呟き。
神様の買い物
そして翌日。昨日下見を済ませ、今日は本格的にお土産を買うぞと、再びやちむん通りを訪れました。
あれもイイね。これもイイね。隣の店も寄ってみようか。お気楽観光客です。
そして店を出ると、店主と立ち話をしている人や、チラホラ歩く観光客に紛れて、レジ袋に大根を下げた人が…。
おいちゃんやん。 昨日のお礼をと近づこうとすると、地元らしきおばあと立ち話。タイミング悪し。
しかもこちらも、今日はあまり時間に余裕もなく、仕方なくやちむん通りを後にすることに。
ごめんね、おいちゃん。また沖縄来るから。
旅路の果てに
そして後日。沖縄の夢の如き日々が頭の大半を占めて、まったくやる気のない日常に戻った中、気付きました。
あのおいちゃんは何だったんだ?夢か幻か?イヤイヤ、実際話してるし。
そして現実逃避にも似た思考回路の中、ふと、こう思いました。
あのおいちゃんは、やちむんの神様だったんじゃないか?もしかして。 我々を歓迎して、祝福して現れてくれたんじゃないか? 数いる観光客の中で、我々をピンポイントで見つけ出し、接近してきて観光ガイドの体を装っていたんだと。
やちむん通りの路地の坂を上るとガジュマルの神様も祀ってあるし。
そう神様の歓迎を受けたんだ。ありがたやありがたや。
そうするとガイド料がなんたらとか考えていたことが恥ずかしく。
神様に対してガイド料とか失礼極まりない。ばちあたりが。
そして知らぬ間に、それが当たり前の感覚になっている日常と、打算的な自分が情けなくも思えて。
素直に感謝しなくちゃね。忘れてたよ。ありがとう。
え?なになに?それでいいけど問題は大根?神様が大根なんか食うのかって?
そんな野暮なこと聞きなさんなよ。
相手は神様ですよ?
そりゃあ、あーた「神のみぞ知る」ってことで。