白日の下に
え~だんだんと今年も押し迫ってきましたが、この時期になると、決まって巷を賑わすのが
“今年の10大ニュース”なんつーもんでして。
あなたは何を選びますか?なんて街頭インタビューの映像なんかがよく流れまして…。
う~ん。アタシにとっての“10大ニュース”ですかい?
最近、ど~も物忘れが始まったらしくて、10個も覚えちゃいねぇーんですけど…。
あ、そうそう、ありました。ありました。
年明け、すぐ位の頃でしたっけ?TVの音楽番組かなんかボーっと見てたんですよ。
そしたら、「おっ、この曲いいじゃん!もっと聴きたいね。」ってな感じで久々にハマった曲を見つけまして。早速、インターネットっちゅうヤツで調べましたよ。
おっ、確かこれだよこれ。ありました。ありました。
何々?King Gnu。なんて読むんだ?キング・グヌ? うん? 違うな。
まったく、最近のバンドっちゃよく分からない名前を付けやがる。
もっとみんなに分かるような、分かりやすい名前にすりゃあいいのにね。
ぴんから兄弟とか殿様キングスとか。
まあ、別に、そりゃあいいンですけどね。…で、肝心の曲はって?
そうそう、これだよこれ。えっ?…なんちゅうおそろしい曲名⁉いいのか?これで?
メンバーの誰も反対しなかったのか?このタイトルで。まあ、インパクトはあるけどね。
え~っ、歳を取ると大抵の事に驚かなくなるというか、慣れるというかまあ、言い換えれば鈍感になっちゃってんでしょうが。
そこんとこもまあ、別にいいやってことで、すぐにスルーして、取り敢えず繰り返し繰り返しその曲を聴きましたね。
いや、ホント、イイ曲だとアタシゃ思ってますよ。正味な話。
いや~久々に一つの曲にハマったのは、アタシ的にはニュースですよ。ニュース。
なんせこんなこたぁ、寺尾聰のルビーの指輪以来ですからねぇ。いや、ホント。
ってな事でリフレインが止まらないアタシを見て、カミさんが声をかけてきました。
「あらっ!珍しいこと!アンタが最近の流行り歌を聴くだなんて。」
「こちらこそ、あらっ!だよ。なんだこの曲知ってんのかい?」
「もちのろんさ!今、人気赤丸急上昇でさ。」
「えっ、そうなのかい?」
「そうよ~。キング・ヌーの『白日(はくじつ)』って曲でしょ?」
「おっ?おう、おう。それよそれ。なんだよく知ってんじゃねぇか。」
「やだよおまいさん、それくらい知ってるよ。」
ふぅ~あぶねーあぶねー。知らないで恥をかくとこだった。
キング・ヌーはともかく「白日(はくじつ)」か。やべっ、「白目(しろめ)」だと思ってた。
おそろしい曲名だと。冷静に考えりゃあ「白目(しろめ)」なんて曲名付けねぇはな~。
やっぱりそうだ「白日(はくじつ)」だよ。
でなになに?結構コメントに同じようなこと書き込んであるじゃねぇか。
「白目(しろめ)」かと思ってましたって。良かった~。アタシだけじゃなかったよ。
ついにモーロクが始まったかと思っちまったよ。
何はともあれ、世間様の前で恥をさらす前に気付いて良かったじゃあねぇか。
あやうく小馬鹿にされて“白目”剥くとこでしたよ。ケケケッ。…。あれ?
いや~まあ、勘違いってことで。
ようこそ どつきワンダーランドへ
そんでもって“10大ニュース”二つ目ってことなんですが、これはね~、アタシだけじゃあねぇ、多分、多くの方も衝撃を受けられたんじゃあねぇでしょうか?
最近の日本の夏はなんですか、ゲリラ豪雨ってのがもう毎年のように起こって。
こんなものは定番になってもらいたくはねぇ、御免こうむりたいもんですが、今年の夏もちょくちょく降りやがって。
「ちょいとアンタ!雨だよ!雨。洗濯物取り込んでおくれよ!」
おう!がってんだい。任せときな!ってなもんで、あたふたと洗濯物を取り込んでひと安心したものの、カミさんは台所で何やら手が離せない様子。
このままほっといてもいいんでしょうが、夏の日差しでもうすっかり渇いており、
出来る事ならコイツを畳んでおけば、後はタンスにしまうだけ。
『カミさん喜ぶ、アタシも嬉しい、雨も上がってはっぴいえんど。』
よし、日頃のマイナスポイントを奪回だとばかりに、洗濯物を畳み始めました。
しかし、ここで事は起こりました。
なに、どこの家庭でも、だいたいTVなんてもなぁ、いったんスイッチ付ければ、見る見ない関係なく、つけっぱなしだとは思いますが、この日のウチもそうでしたよ。
そう、洗濯物を畳みながら何気にTVから流れてきた、その言葉に衝撃を受けたンですよ。
「ど突きゴルフ、ど突きランニング、ど突きサイクリング」
えっ?…。
言葉を失うってのは、こういう事を言うんだなって程の衝撃でした。いやホント。
なんちゅう事を言うんだ!ああ!おとろし。
『カミさん喜ぶ、アタシも嬉しい、雨も上がってはっぴいえんど。』
そう予定していた幸せの構図は見事に打ち砕かれました。
なになに?ど突きゴルフ?ワンホール終わる度にど突きあい。そりゃきつい!
ん?そん時キャディーも参加するのか?まあ、それはいいか。
ど突きランニング?走りながらど突きあい。
走ってるだけに、“足が出ない”んで、ボロは出ねぇし損はしねぇか。
よっ!我ながら、上手いこと言うねぇ。
ど突きサイクリング。こりゃあ無理。危ない危ない。
ど突きあう前に譲りあった方が無難でさ~。
そうそう、昔、やすきよ漫才のネタで
「譲り合う心がなくてど突きあい」
って、やすし師匠が言ってたね~。
当然、きよし師匠から、お前が言うなってツッコまれてたけど。
でもある意味、本質を突いてて名言でして。
「どないやねん、しかし!」 へへっ。
自転車だけに、サッサとまくって逃げるが勝ちってか?
こりゃあまたゴキゲンだぜ、ベイベー。
おっと、思わず要らぬ妄想を語って、ちょいと話がズレちまいましたが、この“どつき”、
どうやら、ど突きあいの“どつき”ではなく、眼鏡の度のこと。
度の付いたサングラスなんで“度付き”サングラス。
そのサングラスをかけたまま、ゴルフやランニングやらスポーツがやれますよって宣伝なんですよ。
それなら納得。話は飲み込めました。そりゃあ、あったら便利だわさ。
あ~しかしビックリした。紛らわしいったらありゃしねぇ。
うっかり、この眼鏡会社の人の前でふざけようもんなら、
それこそ“ど突かれ”ちまうって。ケケケッ。…。あらっ?また?
まあ、いいか。こりゃあまた勘違いってことで。
再会の果てに
なんです?
なんだかんだと、くだらねぇことばっかりほざきやがってこの野郎!ってですかい?
まあまあ、そんなに目くじら立てねぇで、もおちぃーとだけ、お付き合いのほどを。
こっから、真面目な話なんで。イヤイヤ、正味正味。
やっぱりねぇ、一番のニュースは35年振りの同窓会。そう、中坊の時の。
あ、今の若い人にゃ、中坊って言ってもわかんねえか?うん、中学生のときの同窓会。
多感で悩める思春期があったんですよ。こんなおっさんにも。お分かり?
なかなかタイミングが合わなくて参加できなかったんですが、今年やっと、参加の段取りが付きまして。
同窓会ってのは、ありゃ不思議なモンでして、嬉しいような、恥ずかしいような複雑な期待感があってですねぇ。何とも言えない時間でして…。
会場は確かココのホテルの11階だよな?よし、間違いない。
チョット緊張するね、こりゃあまた。
「こんばんは。○○中学校の同窓会なんすけど…。」
「お~こっちこっち!うおっ久し振り~。」
TVドラマやCMなんかじゃ、懐かしい再会、抱擁し合い、涙を流す。
しかし、現実はそうじゃ有りませんでした。
「えっと、チミの名は?」
35年の歳月というもなぁ酷なモンでして、人の姿形まで変えちまうんですよ。
ウブだった中学生が、見るも無残なオッサンに変身しちまってるんですから、認識能力ってやつが追いつきゃしないのも当たり前ってもんで。
お互いが「おめぇ誰だよ!」「そういうてめぇこそ誰だよ!」ってなもんで、感慨などありゃしません。
しかし、そこは同じ時間を共にした者同士、徐々に“名前”と目の前の“オッサンの画像”が寄り添っていき、そこに“甦ってきた記憶”が重なって、識別コードが完成していくってもんで。
「おまえはヒデだね?それとこっちのおまえさんはコージだろ?」
「そういうおまえさんは、ねこまたぎのみのるじゃねえか!早とちりの!」
「早とちりだけ余計だよ、この野郎! やあやあ、久し振り?元気そうで何より。」
ようやく同窓会らしく、盛り上がってまいりました。
ひとしきり歓談の後、二つほど向こうのテーブルの男性と目が合いまして。
お互い軽く会釈しちゃったりして。
「おい、ヒデ。あのテーブルのアイツ、誰だっけ?」
「うん?どいつだい?」
「ほら、チョットでっぷりしたヤツだよ。」
「あ~ありゃ、“越智”君だろ?なんだみのる、覚えてないのかい?」
はて?越智くん?…。あ~!越智くん!
なんだ“オッチー”じゃねえか!ハイハイ。昔、よくツルんでた。
肝心な野郎を忘れてたじゃねぇかよ!
「おい!オッチーだろ?久し振りだな?憶えてる?みのるだよ。
そう、ねこまたぎ・み・の・る!懐かしいなぁ。」
早速瓶ビール片手にご挨拶に。
「いや~卒業以来だからもう35年振りか?元気にしてた?最初気付かなかったよ。ホント申し訳ねぇや。うん?そりゃあ、お互いさまか?っていうかオッチー変わったね。
…でもこうやって会えたから何よりか!うんうん。
あっオッチー、ビールでいい?まあまあ、まずは再会を祝して乾杯、カンパイ!」
ってな事で、持参したビールをなみなみとオッチーのグラスに注いで。
「しかしオッチー丸くなったよ、色んな意味で。
結構肥ったよね? あっ、失敬。…角が取れたってことだよ。 そうそう。
しかもあの頃は、髪型もリーゼントで剃り入ってたし。あれ?アイパーだっけ?
それが今じゃねぇ~。…チョット毛量がヤバいかな? あっ、こりゃあまた失敬。
まあそれよりさ。オッチー見て見て。
ほら、このメガネ憶えてる?45度のメガネ。昔、流行ったヤツ。
確か、オッチーいつも掛けてたっけ?
いやね、この前『度付きサングラス』のCM観ちゃってさ。 あっ知ってる?
そうそう、あれ見てさ『ど突きサングラス』と勘違いしちゃってさ。
早とちりなのは、治ってないんだよこれが。まあそれは、置いといてさ。
(ど突き合い⇒サングラス⇒メガネ)って思い出したのがこの度付きメガネ。
斜めに傾いたヤツ。懐かしいっしょ~!
横浜銀蝿からビーバップ世代しかわかんねえ代物だよ。
確か“ヨンゴー”って言ってたっけ?
そう、探したらまだ持ってたよ~。
でさ、今日なんか話のネタと思って持ってきちまったってわけ。
けど、こんなピッタリハマってオッチーに会えるなんて、こりゃすごい偶然だね~。
ビックリだよ。予知能力あんじゃねぇ?って。
そういやぁ、これ掛けてさ、夏祭り行った時にテキヤの兄ちゃんにガンつけられて、オッチー飲んでたコーラぶちまけて、追いかけられたの憶えてる?
ヤンキー御用達の“ヨンゴー”だったからね~。ケケケッ。
あんときゃ必死だったけど、今じゃ笑い話だよ。」
「あの~それボクじゃないよ…。」
え?
「多分、ねこまたぎ君は“越智”ちがいしてるよ。」
え?なになに“オチ”が違う? まだ面白いこと喋ってないけど。
「ボク、3年C組の“越智”だよ。」
あっ‼そういえば“越智”って二人いたっけ‼ヤンキーのオッチーと真面目な越智クンと。
え?え?って事はアタシゃ、越智クンをオッチーと間違えて喋ってたってワケ?
そういやオッチーは痩せ型だったし、越智クンはもともとチョットぽっちゃり体型だったか。いくら35年経ったからってあそこまでは肥ったりしねぇか。
はっ!じゃあ越智クンに太っただの、ハゲだのって、言っちまったのか?
そりゃあんまりだ。神も仏もねぇってもんで。
やべぇ。失言じゃすまねぇなこりゃ!とっととこの場からトンズラこいたほうがよくねぇ?
冷や汗をかきながら、あたふたしておりますってぇと、ここでコージの声
「宴もたけなわですが、この会場での飲食はまもなく終了で~す。つきましてはこの後、二次会を用意しています。参加希望の方はいったんロビーに集合となっておりま~す」
えっ、もうそんな時間かい?
あ、チョット、はばかり行ってくるねって言い残して、一目散にトイレに駆け込み、大の個室に避難。はあ~。またやっちまった。勘違い。
しかも今回は被害者を出しちまった。申し訳ねぇ。
一方その頃、勘違いされた越智クンはと申しますと、遅れて来た本物のオッチーと再会、オチ同士の談笑中で。
「さっき、ねこまたぎくんにオッチーと間違えられてさ。」
「なんで?みのる来てんのか?そりゃあ会いたいね。けど早速オイラと間違えてるってとこは相変わらずそそっかしいねぇ~!ハハハッ。」
「おい!オッチー!二次会から参加ってことでいいよな。行くだろ?」
「お~ヒデ?行く行く、もちろん!」
「OK、じゃあみんなロビーに集合ね。」
「あれっ、けど、みのるのヤロウはまだ、はばかりかい?」
「あ、じゃボク見てくるよ。勘違い、気にしてるかもしれないし…。」
「越智クンは優しいね~。それに引き換え、みのるはしょうがねぇなぁ。」
「…クン!ねこまたぎクン!」
やべぇどうしよう?合わす顔がねぇや。どうしよう?
あっ酔ったフリだよ、ベロベロに酔ったフリして、記憶にございませんて事にすりゃあイイ。酒の席での無礼講ってことに強引に持っていこう。もうそれしかねぇよな。
「ねこまたぎクン? あっ、いた。」
「お~い!みのるいた~?」
「うん…。いたけど…。トイレの前で、度付きメガネかけて白目剥いてるよ。」