Who is Kali?
美しいビーチが広がり、青い海が果てしなく続くカリブ海の楽園のような島、マルティニーク島。
Kali(カリ)はこの島に生まれ育ち、島の音楽を継承し、新たなメッセージを発信。
支持も厚く、人気を博したルーツ・アーティストの一人です。
彼の音楽は一括して“ワールド・ミュージック”というカテゴリーに位置づけられがちですが、一方では、音楽的のみならず、歴史的、思想的にも重要な意味を持つとされ、評価されています。
Kali(カリ)本名 ジャン=マルク・モネルヴィル。
1956 年 2 月 21 日マルティニーク島フォール・ド・フランス生まれ、北部の町サン・ピエールで育ちました。教師の母とミュージシャンの父を持ち、1970年代後半には音楽の勉学のため本国フランスに渡ります。
(カリ)というのはあだ名で、アニメの「カリメロ」からとったもので、
「頭に「白い」卵の殻をかぶっている「黒い」ひよこのカリメロは、まるで僕ら自身のようだから」
と、カリ本人がインタビューに答えています。
そしてこの「白い」、「黒い」という表現は、同じマルティニーク島出身の革命家であり、思想家のフランツ・ファノンの著書「黒い皮膚・白い仮面」のタイトルと掛けたと言われています。
19歳の時にバンド「ガウル」を結成、その後何度かバンドを変遷した後、1987年にマルティニーク島に帰還。以後島に居住、伝統音楽を守る地元ミュージシャンらと共同して、アルバム「Racines vol.1」をリリースしました。
「Racines vol.1」 (1989)
出典:https://www.amazon.co.jp/
- Mwen Desann St Pie
- Manicou volan
- Abandon
- Conversation
- Vlope Mwen Doudou
- La Fet St Pie
- La Vi Artis Red
- Rale rale
- Racines
伝統音楽の「ビギン」を基調にしたマルティニーク・サウンドが鮮やかに甦り、そのルーツの音に触れることができます。
伝統的打楽器によるリズムや、バンジョーの音色が、明るくも、鄙びた美しさを伴う曲調を彩る反面、歌詞などに込められたメッセージには奥深いものを感じざるを得ません。
カリブ海の小さな島で脈々と息づいていた音楽を世界へ解放した記念すべきアルバムです。
3.「Abandaon」アルバムタイトル曲9.「Racines 」名曲です。
ちなみに、アルバムジャケットに使用されているのは、ユーザン・パルシーの映画『マルティニークの少年』のスティール写真で、この映画も当時のマルティニークの世相を反映した名作です。
Martinique(マルティニーク島)
では、チョット視点を変えて、今回、舞台となるマルティニーク島について。
マルティニーク島は、カリブ海に浮かぶ西インド諸島のなかのウィンドワード諸島に属する島で、フランスの海外県の1つです。
“海外県”とはこの場合、フランスがヨーロッパの本国以外に有する土地の総称のことで、所有圏内、すなわち、“フランス領マルティニーク島”ということです。
お気づきの通り、かつてはフランスの植民地だったという経緯を持つ島です。
当時、大きな財源となったサトウキビのプランテーション農業のため、アフリカから奴隷貿易によって、多くの黒人がこの島に連行されました。
しかし、そんなかつての各国の植民地政策も第二次世界大戦後には淘汰され、独立運動へと発展するも、マルティニークはフランスから自治を認められず、現在も海外県のままです。
実はこういった地域は未だに多く点在し、フランス領(ギアナ、グアドループ、マヨット、レユニオン、サンマルタン)、自治ポルトガル領(アゾレス諸島とマデイラ)、自治スペイン地域(カナリア諸島)があります。
Like a Bob Marley
「Racines vol.2」 (1990)
出典:https://www.amazon.co.jp/
- Pot bambou
- Bel plesi
- Ami roro
- Serpent Maigre
- Ti citron
- Le Plus Beau Refrain de Ma Vie
- Tambou Dan Tche Nou
- La rejane
- Gran tomobil
- Ti kanno
- Freedom morning
- Bel plesi
ファーストアルバムのサウンドをそのまま引き継いだ“続編”とも言える2ndアルバムです。
陽気なラテンの感じで、サトウキビ畑の農作業の休息風景が目に浮かび、郷愁を誘います。
ここで興味深いのが、この伝統音楽を2拍子のレゲエとして再構築している点でした。
先述したようにカリはフランスで音楽活動をしており、そんなカリに多大な影響を与えたのがボブ・マーリーでした。
すでにボブ・マーリーは1973年春、『Catch a Fire』でメジャーデビューしており、そのドレッド・ロック、レゲエ、という音楽スタイルとリズムは全世界に衝撃を与えました。
そして何よりもラスタファリアニズムという宗教的社会運動は、同じカリブ海の近隣の島で、同じ被植民地であったジャマイカで起こった出来事であり、カリにとっての影響は多大であったと容易に想像出来ます。
カリはフランス在住中の1979 年、二番目のグループ「第 6 大陸」を結成し「レゲエDOM-TOM」という曲を発表しており、実際
ラスタが僕の人生を完全に変えてしまった。」
と述べています。
そして1981年、ボブ・マーリーの死去と共に衰退していくラスタファリアニズム。
しかし、そのルーツに重きを置くカリは次第にそのサウンドの方向を、故郷の島マルティニークに求めていきます。
その結果、レゲエの要素とマルティニーク島の伝統音楽「ビギン」を融合したマルティニーク・サウンドを確立します。その代表作とも言えるのが「Racines vol.1」「Racines vol.2」です。
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Racines(根)
「Roots」 (1992)
出典:https://www.amazon.co.jp/
- Monte la rivie
- Abandon
- Rale rale
- Racines
- Ami Roro
- Tanbou dan tche nou
- Pote bambou
- Gran tomobil
- Le fet St-Pie
- La vie artis red
- Le plus beau refrain de la vie
- Ti kanno
- Freedom Morning
- Bel plest
- Racines(Live)
- Lively Up Yourself(Live)
前作、前々作と好評の中、1990年前後の音源を元に作られたでリリースされたのがこのベストアルバム「Roots」です。タイトル通り、改めてカリのルーツを再認識する選曲となっています。
マルティニーク島周辺では植民地統治されていた地域も多く、各々独自の文化を構築していました。
大戦後はジャマイカのようにその統治から独立するなど、その状況は社会的にも思想的にも、それぞれの地域によって格差が生じました。
おそらくカリの置かれていた状況は、植民地であったという悲しい過去を持ちつつも、独自の文化を育んだマルティニークを誇りとし、尊重するというスタンスでありながらも、実際は、ヨーロッパの本国に従属するかたちでしか生き延びられないという、どうにもならない現実。まさにその狭間に居たのでは?
しかし、その矛盾と葛藤し、ある意味“諦念”を抱きながらもなお、自らの音楽を探求していくことを選択したのだと。
私は愛を歌った(中略)
生命の“根”が私の頭の中にある 音楽は私の指先にある
それは私の心臓に鼓動する
希望の太鼓だ
「Racines 」の歌詞より抜粋
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