Gil Scott-Heron(ギル・スコット・ヘロン)
詩人、シンガーソングライター、作家、ミュージシャン。
1970年代から始まった彼の活動や音楽スタイルは、後のヒップホップやネオ・ソウルといったアフリカ系アメリカ人の音楽ジャンルに影響を与え、その誕生に貢献。
ラッパーのルーツになった人物として知られており、またその文学的な詩文は「黒いボブディラン」と評されるなど、その影響はミュージシャンやアーティストから作家、学者まで幅広い分野に及びました。
Bluesologist
Gil Scott-Heron(ギル・スコット・ヘロン)1949年4月1日 イリノイ州シカゴ生まれ。
オペラ歌手の母とサッカー選手の父のもと生誕。しかし両親は彼が幼少期に離婚してしまい、そのためテネシー州ジャクソンに住む祖母に預けられ過ごしました。
10歳の時にピアノを買ってもらい、独学で学び始めましたが、彼が12歳の時に祖母が亡くなり、母の住むニューヨーク市のブロンクスに移ることに。
その後、ペンシルバニア州のリンカーン大学に進学。
同級生にはLangston Hughes(ラングストン・ヒューズ)や、長年のパートナーとなるBrian Jackson(ブライアン・ジャクソン)が在籍。
ほどなくスコット・ヘロンはラングストン・ヒューズに影響されて文学に熱中するようになり、19歳の頃に最初の小説『The Vulture 』(ハゲワシ)と『 The Nigger Factory』(ニガー工場)を書き上げます。
1970年にはこの『The Vulture 』が出版され、好評価を得ました。
この1960年代~1970年代の同時期にはブラック・アート・ムーブメント(黒人芸術運動)という運動が起こり、スコット・ヘロンもこの一連の活動に影響を受けました。
その背景には、ニューヨークでのハイスクール時代に、黒人に対する疎外感と社会経済的ギャップに直面したことなどがあり、芸術活動を通じて黒人の誇りを謳うこのムーブメントに傾倒しました。
その後、詩集『Small Talk At 125th And Lanox』を執筆。
The Last Poets(ラスト・ポエッツ)の影響もあり、この詩を音楽に乗せて朗読をすることを思い立ちました。
アメリカにおいて「ポエトリー・リーディング(詩の朗読)」は、アートにおけるひとつのジャンルを形成する重要な文化でした。
前述のブラック・アート・ムーブメント(黒人芸術運動)の1960年代後半には、ゲットーでのアフリカン・アメリカン達によるポエトリー・リーディングは、パーカッションとのセッションで盛り上がりを見せていました。
中でも、路上詩人集団ザ・ラスト・ポエッツの「イースト・ウィンド」セッションが話題を呼んでおり、スコット・ヘロンはこのラスト・ポエッツのライブを見て衝撃を受けたといわれています。
その後、Flying Dutchman Records (フライング・ダッチマン)という新興レーベルと契約して、アルバム「Small Talk At 125th And Lenox」を発表。
生前ギル・スコット・ヘロンは自身のことを「ブルーソロジスト(青い単演者)」と称していましたが、まさにその“ブルーソロジスト”の誕生の瞬間でした。
Revolution Will Not Be Televised
Small Talk At 125th & Lenox(1970年)
- Introduction/The Revolution Will Not Be Televised
- Omen
- Brother
- Comment #1
- Small Talk At 125th & Lenox
- The Subject Was Faggots
- Evolution (And Flashback)
- Plastic Pattern People
- Whitey On The Moon
- The Vulture
- Enough
- Paint It Black
- Who’ll Pay Reparations On My Soul
- Everyday
1970年にリリースされたギル・スコット・ヘロンの1stアルバム『Small Talk At 125th And Lanox』。
3人のパーカッション奏者によるリズムにのせて、政治的な詩を高らかに読み上げるポエトリーリーディング。公民権運動、人種差別、地球環境、この時代のアメリカにおける黒人コミュニティとその社会批評を反映した内容となっており、ラップの原点となる音楽的・文化的にも非常に重要なアルバムです。
注目すべきは1.「The Revolution Will Not Be Televised」(革命はテレビでは放送されない)。
タイトルはブラック・パワーに関連するスローガンから取られており、前述のラスト・ポエッツのスポークン・ワード作品「When the Revolution Comes」に応えて作られています。
内容は「テレビで革命を見る」ことができる現代の状況の是非を問うもの。
社会運動や政治運動へ意識の変革を訴え、テレビ放送のみに依存することの限界や受動的な消費に疑問を投げかけています。
ソウルやレアグルーヴ、そしてヒップホップリスナーまで必聴の傑作アルバムです。
Pieces Of A Man(1971年)
- The Revolution Will Not Be Televised
- Save The Children
- Lady Day And John Coltrane
- Home Is Where The Hatred Is
- When You Are Who You Are
- I Think I’ll Call It Morning
- Pieces Of A Man
- A Sign Of The Ages
- Or Down You Fall
- The Needle’s Eye
- The Prisoner
翌1971年にリリースされたアルバム『Pieces Of A Man』。
前作がライヴテイクでストリートを感じさせる仕上りだったのに対して、今作は楽曲をベースにしたスタジオでの録音アルバムになっています。
ブルースやジャズを基本とした音楽にメロディーラインを伴ったナンバーも増え、より音楽的重厚さが構築されました。楽曲制作に参加したミュージシャンもBernard Purdie(バーナード・パーディー)、Hubert Laws(ヒューバート・ロウズ)、Ron Carter(ロン・カーター)とジャズやソウルの名プレイヤーが揃い、さらに前述のブライアン・ジャクソンが初めて共演。
後のスコット・ヘロンの音楽性の基盤となるアルバムとなりました。
前アルバムに続き収録された1.「The Revolution Will Not Be Televised」。
ストリート・パフォーマンスの要素が濃かった前テイクに比べ、ジャズ・ファンク調の楽曲に言葉をのせたナンバーで新たな音楽スタイルを提示しました。
この曲は現在のヒップホップやラップ・ミュージックの原点となり、後のミュージック・シーンに多大な影響を与えた重要な楽曲として位置付けられています。
2014年にグラミー賞の殿堂入りを果たしました。
3.「Lady Day And John Coltrane」。
グルーヴィーなジャズ・ファンクナンバーでスコットヘロンが影響を受けたというビリー・ホリデイとジョン・コルトレーンへのオマージュとして書かれました。
スコットヘロンはこの他にも影響を受けた人物として、リッチー・ヘブンス、 オーティス・レディング、ホセ・フェリシアーノ、マルコム・X、ヒューイ・P・ニュートン、ニーナ・シモン、などミュージシャンから活動家まで挙げており、その多才ぶりのルーツをうかがい知ることができます。
R&B歌手Esther Phillips(エスター・フィリップス)のヒットとなった4.「Home Is Where the Hatred Is」。
Kanye West (カニエ・ウェスト)feat.Common「My Way Home」の元ネタ曲としても知られているミッド・グルーヴです。
そしてアルバムタイトル曲7.「Pieces Of A Man」。
抑制されたジャズ・ナンバーにスコット・ヘロンの叙情的な詩が印象的な楽曲です。
失職した男の心情を綴っており、人間の心が砕け散った様子を描写しています。
「pieces」という単語が、ジグソーパズルの“pieces”と「心が粉々になる」“go to pieces”というダブル・ミーニングで使われているのもスコット・ヘロンならでは。
シーンが浮かび上がる映画のようなナンバーです。
また、このアルバムのセッション後、
とロン・カーターが語っているようにスコット・ヘロンのヴォーカルによる歌詞、政治的意識は批評家から高い評価を得ました。
さらに後年になってからはヒップホップへの多大な影響が称賛され、アメリカのブラック・ミュージックの歴史において最も重要なアルバムのひとつとされています。
スコットヘロンの初期アルバムの代表的名盤です。
Gil Scott-Heron / Brian Jackson
Winter In America (1974)
- Peace Go With You, Brother (As-Salaam-Alaikum)
- Rivers Of My Fathers
- A Very Precious Time
- Back Home
- The Bottle
- Song For Bobby Smith
- Your Daddy Loves You
- H2Ogate Blues
- Peace Go With You Brother (Wa-Alaikum-Salaam)
1974年にリリースされた『Winter In America』。
デビューアルバムから所属していたフライング・ダッチマンからStrata-East(ストラタ・イースト)に移籍し、ブライアン・ジャクソンとの連名で初めてリリースされたアルバムです。
ほとんどの曲がブライアン・ジャクソンのピアノの伴奏と最小限のリズムのみというシンプルなもの。
メロウで落ち着きのある演奏がスコット・ヘロンの言葉を生かし、スピリチュアル・ジャズの様相を呈しています。
そんなアルバムの中で注目なのが5.「The Bottle」。
アルバムから唯一シングルカットされたアップテンポなナンバーで、発売後すぐにアンダーグラウンドでカルト的なヒットとなりました。
アルコール中毒者の現実を唄った辛辣な内容でありながら、ビルボードでも高評価を得、社会意識の高いアーティストとしてスコット・ヘロンへの評価も高まりました。
またこのナンバーはJoe Bataan(ジョー・バターン)、Paul Weller(ポール・ウェラー)、Big Boss Man(ビッグ・ボス・マン)等がカヴァー。Jamiroquai(ジャミロクワイ)も、1993年にライブでカヴァーしています。
さらに様々なミュージシャン、アーティストにサンプリングされており、レア・グルーヴの名曲とされています。
本アルバムはスコット・ヘロンが作家・詩人から本格的なバンドを率いるシンガーソングライターへの移行を示したものであるとともに、多くの批評家からスコット・ヘロンの最高のアルバムの一つとして挙げられています。
It’s Your World (1976)
- It’s Your World
- Possum Slim
- New York City
- 17th Street
- Tomorrow’s Trane
- Must Be Something
- Home Is Where The Hatred Is (Live)
- Bicentennial Blues
- The Bottle (Live)
- Sharing
1976年にArista Records(アリスタ・レコード)からリリースされたアルバムが『It’s Your World』。
ライヴ・レコーディングとスタジオ・レコーディングで構成された変則ライブ・アルバムです。
(オリジナルLPは2枚組での発売)。
前述の「Winter In America」を「陰」とするなら、本アルバムは「陽」と形容される内容。
バック・アンサンブルにはブライアン・ジャクソンをはじめとする The Mignight Band (ザ・ミッドナイト・バンド)を起用。ラテン色を加えたバンド・サウンドで多彩なジャズ・ファンクを展開しています。
冒頭1.「It’s Your World」。
ミッド・グルーヴ・ナンバーのアルバム・タイトル曲。
現在でも人気のレア・グルーヴ・クラシックとして有名です。
ミディアム・スロウからラテンに変調する3.「New York City」。
後年、多くのミュージシャンに影響を与える彼らの流動的かつ多様な音楽性が示されています。
そしてライヴテイクの7.「Home Is Where the Hatred Is」。
アルバム『Pieces of a Man』収録曲で、代表曲9.The Bottleのライヴテイク同様、ザ・ミッドナイト・バンドのサウンドとスコットヘロンのヴォーカルが見事に融合したナンバーです。
Bridges (1977)
- Hello Sunday! Hello Road!
- Song Of The Wind
- Racetrack In France
- Vidgolia (Deaf, Dumb & Blind)
- Under The Hammer
- We Almost Lost Detroit
- Tuskeegee #626
- Delta Man (Where I’m Comin’ From)
- 95 South (All Of The Places We’ve Been)
翌1977年にリリースされたアルバムが『Bridges』。
スコットヘロンとブライアン・ジャクソンの肖像画のジャケット・デザインも印象的な1枚。
フランス、南アフリカ、米国内などを、ツアー公演した際の印象をテーマにしたアルバムです。
前作までのラテン・フレイヴァーはほぼ排除され、ソウル、ジャズ・ファンク色が強まった仕上がりで、スコット・ヘロンがライティングした曲(6曲)と、ブライアン・ジャクソンとの共作曲(3曲)による構成。
さらに今作からMalcolm Cecil(マルコム・セシル)が制作に関与。
当時最先端とされたモーグのシンセサイザー・サウンドを取り入れ、程よいディスコ・フレイヴァーが加味されています。
その軽快なディスコ・フレイヴァーが心地いい1.「Hello Sunday!Hello Road!」。
浮遊感のあるメロウな2.「Song Of The Wind」。
そしてジャミロクワイやカニエ・ウェストにもサンプリングされた3.「Racetrack In France」。
後のUKアシッド・ジャズへ多大な影響を与えたレア・グルーヴ・クラシックです。
内容はフランス公演の際の競馬場での話。
また内容でいうと、そのメッセージ性で知られる6.「We Almost Lost Detroit」はデトロイト原子力発電所の事故について述べたもの。
さらに7.「Tuskeegee #626”」は医薬品テストについての話と辛辣なテーマが歌われています。
そして、余韻の残るメロウで落ち着いたナンバー8.「Delta Man」、9.「95 South」。
現在聴いても遜色のないアレンジとスコットヘロンの世界観は時代を超えて聴かれる名盤の1つです。
New Ensemble
REAL EYES (1980)
- The Train From Washington
- Not Needed
- Waiting For The Axe To Fall
- Combinations
- A Legend In His Own Mind
- You Could Be My Brother
- The Klan
- Your Daddy Loves You (For Gia Louise)
ブライアン・ジャクソンとのコンビを一旦解消し、近年制作に関与してきたマルコム・セシルを正式にプロデューサーとして迎えた『REAL EYES』。
スティーヴィー・ワンダーとの共同作業でも知られるマルコム・セシルの起用とともにサポート・メンバーもザ・ミッドナイト・バンドから、Amnesia Express(アムネジア・エクスプレス)という新しいバンドに変更。
新しいステージへの転身を意図した転換期のアルバムです。
サンプリング・ソースで知られる5.「A Legend In His Own Mind」。
メロウなミディアム・グルーヴです。
また、ガラージ・ファンに人気の7.「The Klan」を収録。
オリジナルはRichie Havens(リッチー・ヘヴンス)で、スコット・ヘロン&Amnesia Expressによるカヴァー・バージョンです。原曲との聴き比べもおススメです。
また、このアルバム・リリースと同時期スコットヘロンはスティービー・ワンダーのHotter than Julyツアーのオープニングアクトとしてツアーに参加。2ヶ月以上に渡りステージを共にしました。
Spirits(1994)
- Message To The Messengers
- Spirits
- Give Her A Call
- Lady’s Song
- Spirits Past
- The Other Side, Part I
- The Other Side, Part II
- The Other Side, Part III
- Work For Peace
- Don’t Give Up
1982年にアルバム『Moving Target』をリリースしたスコットヘロン。
その後、このアルバムに参加したRon Holloway(ロン・ハロウェイ)のツアーに参加、共に音楽活動をするようになります。
その間新たなアルバム制作は無く、10年以上のブランクを経て1994年にリリースされたアルバムが「Spirits」。
90年代のHIP-HOPシーンの盛り上がりと共に再認識、リスペクトされるようになったスコットヘロン。
その効果も相まって再びシーンに戻ってきた感が否めないタイミングでのリリースでしたが、そんな危惧すら無用の真摯かつシビアな内容。彼の鋭い観察眼による辛辣な社会評論は健在。
一線を画すその洞察力と存在感を見せつけるアルバムとなっています。
アルバム冒頭の1.「Message To The Messengers」では、若いラッパー達を一蹴。
シリアスなメッセージをヘヴィーなシンセベースに乗せ、新たなサウンドを展開しています。
この時期のHIP-HOPシーンに対しスコットヘロンは、
私は詩人としてキャリアを始める前にいくつかのバンドで演奏していた事がある。
言葉を置くことで音楽を超える、そして同じ言葉を混ぜ合わせて音楽にするという大きな違いがある。
多くのユーモアは無く、彼らは多くの俗語と口語体を使うが、個人の中を本当に覗くことはできない。
言い換えると、あなたは多くの思わせぶりな言動だけを手にする。
—Gil Scott-Heron (Wikipediaより抜粋)
と実像の無い虚無的な音楽シーンに批判的な考えを示しています。
アルバムタイトル曲2.「Spirits」はジョン・コルトレーンの名曲「Equinox」に詩を乗せたナンバー。
自身の1974年のヒット曲「The Bottle」をフュージョンチューンにアップデートした3 部構成の組曲6.「The Other Side, Part I」 7.「The Other Side, Part II」 8.「The Other Side, Part III」。
さらに湾岸戦争に焦点を当ててアメリカの軍国主義を批判した内容の9.「Work For Peace」。
A Tribe Called Quest(ア・トライブ・コールド・クエスト)のAliが参加した10.「Don’t Give Up」などスコットヘロンらしいナンバーが収録された「新たなる意欲作」です。
Another 16 years later
再び音楽シーンに復帰し、その活動が期待される中、2001年スコット・ヘロンはコカインの所持によってニューヨーク州で拘禁。
2002年に一旦刑期を免れたものの再度拘禁されるなど、薬物中毒による個人的および法的トラブルを起こしてしまいます。
2009年までの長い苦悩と困難の期間を経て、2010年、16年振りとなるオリジナルアルバム『I’m New Here』がリリースされました。
I’m New Here(2010)
- On Coming From A Broken Home (Part 1)
- Me And The Devil
- I’m New Here
- Your Soul And Mine
- Parents (Interlude)
- I’ll Take Care Of You
- Being Blessed (Interlude)
- Where Did The Night Go
- I Was Guided (Interlude)
- New York Is Killing Me
- Certain Things (Interlude)
- Running
- The Crutch
- I’ve Been Me (Interlude)
- On Coming From A Broken Home (Part 2)
アルバムは2005年に構想を始め、2010年にイギリスのXL Recordingsからリリースされ、さらにXLのオーナーであるリチャード・ラッセル自らがプロデュースを手掛けました。
15曲で全28分という1曲当たり2~3分のショートトラックによる構成。
以前のソウル、ジャズ・ファンクといったスタイルとは打って変わって、アコースティックやエレクトロニックのミニマル・サウンドでこれまでのスコット・ヘロンのイメージを覆すサウンドです。
内容も初期の社会的、政治的テーマなどを唄ったものは無く、後悔、和解、救いのテーマなど内省的でスコットヘロンの独白とも言えるもので、これもこれまでの作品と一線を画す“異質”なアルバムです。
2部構成のナンバー1.「On Coming from a Broken Home」は祖母のもとで育てられたという自らの生い立ちを回顧、祖母を賛辞した内容。カニエ・ウェストの「Flashing Lights 」からサンプリングされたストリングスのループとピアノをフューチャーしています。
アルバムタイトル曲3.「I’m New Here」
アコースティックギターによるシンプルなサウンドのみで淡々と歌われるナンバー。
なりたくはなかったけどここでは新参者だ(ここに来たのは初めてです)
案内してもらえますか?
どんなに間違ったことをしても
いつでも振り向くことができる」 (「I’m New Here」歌詞より抜粋)
内省とも自己啓発ともとれる内容で、自身の過去と未来を見据えた「現在」での告白ととれるものです。
また、かつてスコット・ヘロン自身が書いた小説「ハゲタカ」の歌詞を自らアレンジした4.「Your Soul And Mine」。
ジョン・リー・フッカーのブルースをベースに、新しい歌詞とアレンジで再考案された10.「New York Is Killing Me」などこれまでとはテイストの違うナンバーが揃い、スコットヘロンのアルバム史上、類を見ないアルバムとなりました。
このアルバムは「スコット・ヘロン最高の芸術」と称され、多くの批評家から称賛を得ました。
Message to posterity
このアルバムリリースの1年後の2011年5月27日、ニューヨーク市のセント・ルーク病院でギルスコットヘロンは死去。62歳でした。16年振りの新作「I’m New Here」は遺作アルバムとなってしまいました。
1970年、ポエトリーリーディングから始まった彼の音楽活動はミュージシャンやアーティストから作家、学者まで幅広い分野に多大な影響を及ぼしました。
社会的不穏、それぞれの時代における価値観や相違を鋭く捉え、口承詩とソウル、ジャズを融合させたジャンルを形成。それは新たな音楽スタイルの可能性を提示したとともに、ブルースへの回帰でもあり、ヒップホップの前衛と言えるものでした。
スコットヘロンの楽曲は今なお多くのラッパーやヒップホップ・アーティストにカヴァー、サンプリングされていますが、それだけに留まらず、彼の普遍的なメッセージは今もなお人々の心を惹きつけています。