ソウル・ミュージック。
1950年代から1960年代の初期にかけて、アフリカ系アメリカ人のゴスペルとブルースから派生したジャンルです。どちらかと言うと、ゴスペル色の濃厚な音楽をソウル・ミュージックと呼ぶようになったとも言われています。
明確なジャンル分けは難しく、ソウル/R&Bといった解釈の方がより分かりやすいかもしれません。
そしてUKソウルとはその呼び名の通り、イギリスのアーティストから発信されたソウル・ミュージックでブリット・ソウルとも呼ばれています。
遅れてきた正統派UKソウル
Camelle Hinds(カメール・ハインズ)シンガー、作曲家そしてベーシスト。
1957年11月15日、イギリスのイプスウィッチ(Ipswich)生まれ。
現在、LCCM(London College of Creative Media)の講師を勤め、後進の育成にも当っています。
そんなカメール・ハインズが1996年にリリースしたソロ1stアルバムが「Soul Degrees」。
「Soul Degrees」 (1996年)
出典:https://www.amazon.co.jp/
- Sausalito Calling
- Sunday Doesn’t Feel The Same Without You
- Heavy On Summers Vibe
- Hold On To Love
- Heaven In Your Eyes (Interlude)
- Light A Candle
- Thank You (Falletin Me Be Mice Elf Agin)
- What’s The Colour Of Love
- How Are You My Dear Today
- Room Full Of Strangers
- I Can See A Star
- Lay Back (Interlude)
- It’s Not Enuff!
カメール・ハインズ?誰それ?そんな声も聞こえてきそうですが、それはのちほど。
初のソロアルバム・リリースと言っても彼のキャリアからすれば満を持してといった感じで、’90年代テイストなのに、’70年代のメロウなニュー・ソウルの魅力が溢れた名盤です。
カーティス・メイフィールドを彷彿とさせる1.Sausalito Calling、
シンガーとしてもその才能、実力を示した4.Hold On To Love。敢えて言わせてもらうなら名曲!
7.Thank YouはSly & The Family Stone(スライ&ザ・ファミリーストーン)のカバー曲。ここでのベース・プレイは流石のもの。
ベーシストとしての実力もさることながら、ヴォーカリストとしてのテナー~ファルセットの唄声も聴きごたえがあり、飽きの来ない1枚です。
1996年にリリースされたこのアルバム。
単純計算によるとカメール・ハインズ39歳の時点でのアルバム。
ミュージシャンとしては遅咲きなのではと思われるかもしれません。
しかし、彼のキャリアをもってすれば
「UKソウルを牽引してきた存在感は健在、まさに遅れてきたソウルアルバムの傑作」なのです。
逡巡なきファンク
カメール・ハインズが音楽シーンに登場した最初のキャリアは、Central Line(セントラル・ライン)というバンドのベーシスト兼ヴォーカルとしてでした。
このCentral Line(セントラル・ライン)、ソウル・バンドとして1978年4月に結成され、翌1979年にレコードデビューしました。
彼等の音楽は80年代初頭の「ブリット・ファンク」と呼ばれた英国産ソウル~ジャズ・ファンクムーヴメントの中で、先導的役割を担いました。
「walking into sunshine」や「nature boy」などのヒット曲を生みましたが、1985年に解散。
カメール・ハインズはベーシストとして、スタイル・カウンシルのサポートやツアー要員として活動します。
その後1986年、セントラルラインの元メンバーであるHenri Defoe(ヘンリー・デフォー)とHindsight(ハインドサイト)というバンドを結成。
わずか数年をという短い活動期間でしたが、アルバムをリリースしています。
「Days Like This」というアルバムですが、ヒット曲 “Stand Up (Work It Done)”を収録、ボズ・スキャッグスの “Lowdown” をカバー。隠れた名盤となっています。
ハインドサイト解散後はソロレコーディング、セッションミュージシャンへ転向します。
その頃、音楽シーンではクラブを中心に派生したアシッド・ジャズが注目されるようになっていました。
そのアシッド・ジャズの創設者的存在の、DJ、Chris Bangs(クリス・バングス)と一緒に活動したり、
伝説のモータウン・シンガーであるJimmy Ruffin(ジミー・ルフィン)のベースを演奏するようになり、その知名度を高めました。
そしてクリス・バングスや以前サポートしたスタイル・カウンシルといった関連からポール・ウェラーのツアーに参加し、セッションシンガー/ベーシストとして活動、名実ともに注目を集め、評価の高いミュージシャンとして認知されていきました。
そして満を持して、1996年前述のようにソロアルバムをリリースするに至るワケです。
New Soul Again
「Vibe Alive」 (1999)
出典:https://www.amazon.co.jp/
- Closer To The Source
- Carupano
- Time To Come Home
- Yeah! Jam
- The Beauty Of You
- First Time
- Love So Good (Tribute)
- Running Away
- I’ve Never Known Love Like This Before
- Love’s Guarantee
- Yeah! (Reprise)
- Vibe Alive
1st「Soul Degrees」のその後、リリースされた2枚目のアルバムVibe Alive。
’70年代終盤から、’80年代初頭のソフト/メロウなAOR的なサウンドで、洗練された都会的なセンスが感じられるアルバムです。
冒頭からのハイレベルなソウルナンバー 、1.Closer To The Source はシカゴ・ソウルの才人Leroy Hutson (リロイ・ハトソン)の楽曲のカヴァー・ヴァージョンです。アレンジ、各楽器パートのバランス、絶妙です。
その後の楽曲もラテン・テイストあり、ブルー・アイド・ソウルを彷彿とさせるなど、様々な要素で彩られています。
中でも、5.The Beauty Of You。タイトルは違えど、イントロですぐにそれとわかるドナルド・フェイゲンの名曲「I.G.Y」のカヴァーでカメール・ハインズならではの解釈を垣間見せると共にドナルド・フェイゲンに対する“敬意”を感じずにはいられません。
ブルー・アイド・ソウルと総括されるUKソウル。
しかしそこにはファンク、DJを始めとするクラブ・ミュージック、ブリット・ポップ、AORなど様々なジャンルの要素が絡み合い、独自の変化を遂げているような気がしてなりません。
そしてそのサウンドの可能性を、自らをもって体現してきた1人がカメール・ハインズなのでないでしょうか?
冒頭で紹介したように現在、LCCM(London College of Creative Media)の講師を勤めているそうで。
“先生”の作ったアルバムは生徒達にはどう映るのでしょうか?
そしてそんな彼らは、将来どんな音楽を見せてくれるようになるのでしょうか?
それと共に、かなり間が空きましたが、カメール・ハインズの3枚目のアルバムも期待したいものです。