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TOM WAITS Ⅶ

音楽
from switch
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Best Alternative Music Album

1992年「NIGHT ON THE EARTH」に引き続きリリースされたアルバム「Bone Machine」

新たなトム・ウェイツ・サウンドは、アルバム制作の休止期間中に“充電”されたアイディアと、“音への鬱積”が解放された独創的なものでした。

アルバムの1曲目「Earth Died Screaming」がこちら

アサイラム時代からのトム・ウェイツ・ファンなどからは、賛否両論巻き起こったのも分かる気がします。

「本質的に、サイケデリックに色鮮やかな歌」と本人が語っていたそのままの激しく、やかましい曲。

しかし、新しいトム・ウェイツのサウンドのクオリティ、芸術性は各方面でセンセーションを巻き起こし、「Bone Machine」はグラミー賞の最優秀オルタナティヴ・レコード賞を獲得、トムウェイツにとって初のグラミー賞受賞作となりました。

Bone Machine (1992)

from amazon.co.jp

  1. Earth Died Screaming
  2.  Dirt in the Ground
  3.  Such a Scream
  4.  All Stripped Down
  5.  Who Are You
  6.  The Ocean Doesn’t Want Me
  7.  Jesus Gonna Be Here
  8.  A Little Rain
  9.  In the Colosseum
  10.  Goin’ Out West
  11.  Murder in the Red Barn
  12.  Black Wings
  13.  Whistle Down the Wind
  14.  I Don’t Wanna Grow Up
  15.  Let Me Get Up On It
  16.  That Feel

 

本アルバムではトム・ウェイツはドラム・パーカッションを中心に楽曲を制作しており、

「実際、『ボーン・マシーン』で俺が書いた曲はどれもシンプルなものばかりさ。
『Murder in the Red Barn』『That Feel』『 In the Colosseum』『
Earth Died Screaming』
―どの曲も俺が部屋の中で、ドラム片手にワーワーわめいているうちに出来てきたようなものばかり。」

Switch 「Tom Waits Meets Jim Jarmusch」より抜粋

と、カリフォルニアの片田舎にある自宅で一気に書き上げた様子を語っています。

また、『レイン・ドッグ』(1985年)で共演したキース・リチャーズが再び参加。

上述したThat Feel』を共作。トム・ウェイツがドラムを叩き、キースがギターを弾きその場で一緒に曲を書き上げました。ヴォーカルでも参加しており一聴の価値ありです。

ご視聴はこちら↓

Bitly
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With Chamberlin

本アルバムでトム・ウェイツは打楽器の代わりとしてリズム音源として納屋にある農具や調理器具を使用。
その音は独特のサウンドの脚色を担っています。

普段から、様々な自然の音や人工的な工業音を録音収集しているトム・ウェイツ。
それはトム・ウェイツの音楽の素材が詰まった、まるで魔法の引き出し。想像力の源なのかもしれません。

さらにこのサウンドを特徴付けているのがChamberlin」(チェンバリン)という聞き慣れない楽器。

「うん、チェンバリン、あの中に装備されている効果音はどれもすごいもんだ。窓からスーパーマンが飛び去る音まであるんだからな。嵐の音、風の音、雨と雷の音、この三つの音は鍵盤でも隣りあっているんだ。俺が持っているのは最初の型だから、チェンバリンの当時の発明のすべてがこれでもかって感じでつまっている。
Earth Died Screaming』と『The Ocean Doesn’t Want Me』の二曲だけだけど使っているんだ。」
Switch 「Tom Waits Meets Jim Jarmusch」より抜粋

  最初のチェンバリン Model 200

from 120years.net

この「Chamberlin」(チェンバリン)はハリー・チェンバリンが1949年に製作した、鍵盤で操作するアナログ再生式のサンプル音声再生楽器で「史上最初のサンプリングマシン」と言われています。

改良を重ね、チェンバリンにはさまざまなモデルがあります。
トム・ウェイツが使用しているのは1960年~62年のモデル。

その後、このチェンバリンを応用した「メロトロン」という楽器と競合するも、1970年代になるとシンセサイザーの登場によりメロトロンと共にユーザーは減少。1981年にチェンバリンはその生産を終了。
過去の産物となってしまいました。

しかし、その音質は今でも高い評価があるのも事実で、さまざまなアーティストから支持されています。

最新のデジタル機器より、1960年代初頭に作られたアナログ機器の音を選択するするのもトム・ウェイツならでは。
リアルでザラついた印象は受けるものの、奥深さや温かみを感じるサウンドには、こういった楽器ならではの“音”がありました。

今回の「ボーン・マシーン」だけでなく実は「フランクス・ワイルド・イヤーズ」の録音の際にもチェンバリンは多用されており、改めて聴き直すと新たな発見があるかしれません。

まさに音の錬金術師、トム・ウェイツ。

「『ボーン・マシーン』の録音エンジニアのチャド・ブレイクがインドへ行って、魚市場へ出かけて、通りの真ん中にマイクを置いて録ってきた音があるんだが、自転車の音、ハンドルに付いているベルのチリンチリンって音。こいつがすごいんだ。チリンチリンがこっちからやってきて、あっちへと去っていく。目を閉じて聞いているとまるで映画さ。耳のための映画。」
Switch 「Tom Waits Meets Jim Jarmusch」より抜粋

どうやらトム・ウェイツの頭の中では、音楽と同時に映像のイメージがあり、常に交錯して独自の世界観を構築しているようです。

THE BLACK RIDER

立て続けに、翌1993年にリリースされたアルバム「THE BLACK RIDER」

前述した1990年上演されたドイツでのロバート・ウィルソンとの舞台「ブラック・ライダー」の劇中曲で、ドイツ・ハンブルグで公演用に作られたオリジナル録音テープをもとに、トム・ウェイツがカリフォルニアで新たに録音、リミックスしたものです。

THE BLACK RIDER (1993)

from amazon.co.jp

  1. Lucky Day (Overture)
  2. The Black Rider
  3. November
  4. Just The Right Bullets
  5. Black Box Theme
  6. ‘T’ Ain’t No Sin
  7. Flash Pan Hunter (Intro)
  8. That’s The Way
  9. The Briar And The Rose
  10. Russian Dance
  11. Gospel Train (Orchestra)
  12. I’ll Shoot The Moon
  13. Flash Pan Hunter
  14. Crossroads
  15. Gospel Train
  16. Interlude
  17. Oily Night
  18. Lucky Day
  19. The Last Rose Of Summer
  20. Carnival
「最初にロバート・ウィルソンとハンブルグのタリア劇場から『ブラック・ライダー』に参加する話を持ち掛けられた時、興味をそそられ、得意になったけど、怖くもなったよ。
拘束時間は莫大で、行き来しなければならない距離も問題だったけど、これは刺激的な挑戦になると確信したよ。
ロバート・ウィルソン、おまけにウィリアム・S・バロウズも加わってのカウボーイ・オペラだというじゃないか。そんな素晴らしいチャンスをみすみす棒に振るなんて俺にはとても出来なかったんだよ。」

アルバム「THE BLACK RIDER」ライナーノーツより抜粋

若かりし頃、ビートニク(ビート・ジェネレーション)を代表する作家、ジャック・ケルアックに共感、影響を受けたと語ったトム・ウェイツ。そのこともあり、かつては「遅れてきたビートニク」とも称されました。
ついにジャック・ケルアックと共にビートニク作家であるウィリアム・S・バロウズと巡り合いました。

(写真左:Robert Wilson ロバート・ウィルソン 中央:William Seward Burroughs ウィリアム・S・バロウズ 右:Tom Waits トム・ウェイツ)

from 「THE BLACK RIDER」 liner notes

ドイツ・ハンブルグには長年の相棒であるベース奏者のグレッグ・コーエンを同伴。
そして着いた翌日からスタジオにこもり、前日の夜遅くに作った音を翌朝のリハーサルに届けるというハードスケジュールでした。

慣れない異国ドイツの地元のミュージシャンと、言葉の壁を抱えたままの制作作業。

そんな中でもトム・ウェイツの音への探究心は変わらず、むしろ楽しんでいるようでした。

「ハイ・ミュージックとロウ・ミュージック、つまり、普段オーケストラでやっている学士と街頭で演奏しているようなジプシー・ミュージシャンを組み合わせるのも面白いぜ。
そうするとお互いが背負ってきた音楽的環境とか素養とか、いろいろな物が混じったりぶつかったりして新しい風景が拓けてきたりするしな。」

Switch 「Tom Waits Meets Jim Jarmusch」より抜粋
その時のドイツでの粗録りが気に入っていたトムウェイツ。
しかし、アルバムに再編集するために、再びドイツへ渡り彼等と録音するには時間的にも距離的にも困難でした。
そこで、カリフォルニアで新たにグループを結成。
しかし、今度は全員がサンフランシスコ出身の音楽家たちでした。

きめ細やかに洗練された型通りの音に納得がいかないトムウェイツ。
もっと大雑把な取り組みの方が必要だと感じ、楽譜を捨て各々の直感で取り組むように提案。

当初困惑したメンバーも徐々にその意図を理解し、舞台「THE BLACK RIDER」を彩る音楽を再構成しました。

from 「THE BLACK RIDER」 liner notes

音楽家達の個性を引き出すトムウェイツならではのアイディアは、「THE BLACK RIDER」という新しい風景を拓いて見せました。

ご視聴はこちら↓

Bitly

That’s The Way

5年の空白を経て立て続けにリリースされた3枚のアルバム。
しかし、トムウェイツにとっては空白ではなく、実に有意義で濃厚な5年間でした。

この期間を得て新たなサウンド、新たなステージに上がったトムウェイツ。

この頃のことをジム・ジャームッシュにこう語っています。

「ノッてる時期なんだろうな。新曲がいっぱいたまっているから、もう1枚オリジナル曲だけのアルバム作りにかかりたいね。」
Switch 「Tom Waits Meets Jim Jarmusch」より抜粋

そしておそらく、舞台「THE BLACK RIDER」を経て、多大な刺激を受けたであろうウィリアム・S・バロウズについては、

「もちろんバロウズは大好きだよ。まるで金属製の机みたいな男だ。蒸留器と言ってもいい。彼から生まれてくるすべてがウィスキーだもの。」
Switch 「Tom Waits Meets Jim Jarmusch」より抜粋

トムウェイツらしい賛辞です。

そしてこのアルバムにはバロウズの詩を引用した曲が収められています。
大いなる敬意を込めて。

(8.That’s The Way~9.The Briar And The Rose)

(作詞:ウィリアム・S・バロウズ)
That’s the way the stomach rumbles  
That’s the way the bee bumbles
That’s the way the needle pricks
That’s the way the glue sticks
That’s the way the potato mashes
That’s the way the pan flashes
That’s the way the market crashes
That’s the way the whip lashes
That’s the way the teeth knashes
That’s the way the gravy stains
That’s the way the moon wanes


そんな風に胃がゴロゴロ鳴り

そんな風に蜂はブンブン飛ぶのがいい
そんな風に針の一突きがあり
そんな風に糊がくっつく

そんな風にジャガイモがつぶされ
そんな風にフライパンが光るのがいい
そんな風にマーケットがぽしゃり
そんな風に鞭がとぶのがいい
そんな風に歯がきしみ
そんな風にソースのシミができ
そんな風に月が欠けるのがいい
(アルバム「THE BLACK RIDER」ライナーノーツより抜粋)

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