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The Durutti Column Ⅱ

音楽
――現在の音楽シーンについてどう思われますか?
「実に寂しい限りだ。ミュージシャンの主体性が弱まって、ビジネス側のコントロールに完全に屈している。
パンクはすっかり過去のものとなったし、ザ・フォールのような生き残った連中も話題にはなるけど、僕には少しもいいと思われない。
現状では、何に期待してもだいたい裏切られてしまうと思えるけど……」
FOOL’S MATE 1984年3月号掲載 ヴィニ・ライリーインタビューより抜粋

このインタビュー記事が掲載された1984年、世界のロックシーンは大きな変化を迎えていました。

それまでのローリング・ストーンズやピンク・フロイドのような無骨なロックに代わり、
マドンナやマイケルジャクソンなどの大衆的なサウンドが浸透し始めた年でした。

背景には混迷するパンク終焉後のロックシーンを狡猾に操り、巨大化した音楽ビジネスの存在が。
そして、その象徴ともなったのが一世を風靡したMTVの放映などのメディア路線でした。

しかしその反面、上述のように、辛辣な言葉で苦言を呈する者がいました。ドルッティコラムでした。

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another setting 

Another Setting (1983)

出典:amazon.co.jp/2015年リリースCD

  1. Prayer
  2.  Response
  3.  Bordeaux
  4.  For a Western
  5.  The Beggar
  6.  Francesca
  7.  Smile in the Crowd
  8.  You’ve Heard It Before
  9.  Dream of a Child
  10.  Second Family
  11.  Spent Time
  12.  I Get Along Without You Very Well
  13.  Love Fading
  14.  For Noriko
  15.  Bordeaux (Live at WOMAD)
  16.  The Beggar (Live at La Cigale)
  17.  Piece for Out of Tune Grande Piano

前作「LC」から2年後にリリースされた「Another Setting」。
それまでのサウンドの延長線上にあると見られますが、実は実験的な要素を含んだアルバムです。

アルバム「LC」から参加しているブルース・ミッチェルがほぼ全面的に参加。
繊細で効果的なドラムラインを構築しています。
Maunagh Fleming(マウナ・フレミング)のイングリッシュホルンが加わったインスト曲「Prayer」。
ファクトリー・レコードの創始者Tony Wilson(トニー・ウィルソン)の元妻Lindsay Reade(リンゼイ・リード)が歌うHoagy Carmichael(ホーギー・カーマイケル)の名曲「 I Get Along Without You Very Well」のカバーも収録。

トランペットなどのホーンセクションの参加などの変化があり、ヴィニ自身もギターとピアノを操るというスタイルで、さらにヴィニがヴォーカルを取る曲が半数近くを占めています。

この結果、全体的に以前のアルバムよりキャッチーな印象で、新たなサウンド確立への実験的アプローチのようにも聴こえます。

「新しいアルバムは非常に異なった作りになっていて、様々にミックスされているんだ。
ブラスのセクションと多くのピアノが入り、ギターの扱いも異なっている。古いホーギー・カーマイケルの曲があるけど( I Get Along Without You Very Well)、本当に美しい歌だよ。」
(1982年 factorybenelux. 「The Durutti Column/Another Setting 」ヴィニ・ライリー レビューより抜粋)
さらにこの「Another Setting」の印象的なジャケット・デザイン。
マーク・ファローなる人物によるものです。

Pet Shop Boys / Introspective (1988)

Pet Shop Boys/Behavior(1990)

Pet Shop Boys/Disco 4(2007)

出典:amazon.co.jp/

後にペットショップボーイズのデザインを手掛けた事でその名を知られる事になりますが、彼のキャリアの原点はファクトリー・レコードやハシエンダなどにおける実験的なデザインでした。
本作「Another Setting」はマーク・ファローにとっても初期の作品になりますが、ドルッティコラムの独特の世界観にリンクしたデザインが秀逸です。

ファクトリー・レコードに於けるデザインワークにご興味のある方はこちらをどうぞ。

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Amigos Em Portugal

――よく聴く音楽は?
「子供のころは父親がポップス嫌いだったから、クラシックとアメリカの30年代ジャズばかり聴いていた。アール・ハインズとかファッツ・ウェラーズあたりのピアニストものとかをね。
だから、友達と話があわなくて、よく古臭い奴だって言われてな。
今でも色々なクラシックをよく聴く。」

FOOL’S MATE 1984年3月号掲載 ヴィニ・ライリーインタビューより抜粋

Amigos Em Portugal  (1983)

出典:amazon.co.jp/

  1. Amigos Em Portugal
  2. Small Girl By a pool
  3. Lisboa
  4. Sara E Tristana
  5. Estoril a Noite
  6. Vestido Amarrotado
  7. Wheels Turning
  8. Lies of Mercy
  9. Saudade
  10. Games of Rhythm
  11. Favourite Descending Intervals
  12. To End With

1983年にリリースされたアルバム「Amigos Em Portugal」。

(ポルトガルの友人たち)というタイトルから伺えるように、今回、所属するファクトリー・レーベルではなくポルトガルのFundacao Atlanticaレコード原盤のリリース作品で限定4000枚という珍しいものでした。

前作に比べてサウンド面でピアノの比重が大きくなっており、深淵さが増した印象を受けます。
かつてクラッシックに造詣があったというヴィニですが、その影響を垣間見ることができます。
もちろんヴィニの抑制されたギターと浮遊するようなヴォーカルも健在。

ご視聴はこちら↓

ドゥルッティ・コラムの「Amigos Em Portugal」をApple Musicで
アルバム・1983年・12曲

次作「Without Mercy」に繋がる、まさに“布石”のアルバムと言えるでしょう。

Without Mercy

一方、ファクトリー・レコードの創設者の一人であるトニー・ウィルソンは、ドルッティコラムのサウンドに停滞感を抱いていました。

アルバム「LC」に続く「Another Setting」で期待したほどの変革を感じなかった彼は、サウンド面の変化を求めました。

背景には同レーベルが輩出したNew Order(ニュー・オーダー)の大躍進がありました。
ヴィニの音楽的センスと才能を理解していた彼は、ドルッティコラムにもニュー・オーダーのような開花を望んでいたのです。

ニュー・オーダーのシングル『ブルー・マンデー』は大変よく売れているけれど、採算は全然とれていないんだ。
普通の制作費以上にジャケットに凝ったりしたために、売れれば売れるほど会社は損してるんだ。
トニー・ウィルソンに聞いた話だけど、ファクトリーとしてはそれでもいいと言うんだ。
こんなふうに、時には金儲けのためだけではない作品を出すというのは素晴らしいと思うし、僕自身とても勇気づけられる。

FOOL’S MATE 1984年3月号掲載 ヴィニ・ライリーインタビューより抜粋

そんな、なかなか突破口が見いだせないジレンマの中、ある楽曲が目にとまりました。
それが「A Little Mercy」でした。

トニー・ウィルソンはこの曲をコンセプトにしたアルバムを提案し、制作されたのがこの「Without Mercy」でした。

Without Mercy  (1984)

出典:amazon.co.jp/

  1. Without Mercy 1
  2. Without Mercy 2
  3. Goodbye
  4. The Room
  5. A Little Mercy
  6. Silence
  7. E.E.
  8. Hellow
  9. All That Love and Mathe can do
  10. Sea well

翌1984年にリリースされた「Without Mercy」。

従来通りファクトリー・レーベルからのリリースとなりました。
これまでのサウンドからよりクラシカルな構成で新たな展開を見せており、ドルッティコラムの作品の中でも野心的な作品として知られています。

再発盤には他の楽曲も収録されていますが、オリジナル・アルバムの収録曲表記には組曲からなる「Without Mercy I」と「Without Mercy II」の2曲のみというものでした。

参加ミュージシャンはブルース・ミッチェルが全面的に参加、
タキシードムーンのブレイン・L・ラインガー(ヴァイオリン・ビオラ)、ジョン・メトカーフ(ビオラ)、
ティム・ケレット(トランペット)、キャロライン・ラベル(チェロ)そして、アルバム「Another Setting」で参加したマウナ・フレミング(コーラングレ、オーボエ)も再び加わり強力な布陣。

前作のアルバム「Amigos Em Portugal」で比重の大きくなったヴィニのピアノをベースに、
新旧の楽器を巧みにブレンドした室内楽的なサウンドに仕上がっています。

――共演したいアーティスト、プロデューサーはいますか?
「特にいない。でも、今度は、バイオリンやトランペットを使った曲を考えているから、クラシックの演奏家かな。(中略)プロデューサーに関しては、前にも言ったけど、自分でプロデュースするほうが僕には向いているから、当面は誰もいない。僕らの音楽はインプロヴァイゼイションではない。というよりは、ヴァリエイションに近い。つまり、僕らを最良にプロデュースできるのは、僕ら自身なんだ。」
FOOL’S MATE 1984年3月号掲載 ヴィニ・ライリーインタビューより抜粋

そして、トニー・ウィルソンの戦略は功を奏し、ドルッティコラムはUK Independent Album Chartで8位という好セールス、高評価を獲得することになりました。

ご視聴はこちら↓

ドゥルッティ・コラムの「Without Mercy」をApple Musicで
アルバム・1984年・10曲

 Henri Matisse /Trivaux Pond

また、アルバムジャケットに個性的なデザインを採用しているドルッティコラム。

「Without Mercy」のアルバムジャケットはグレーを基調とした段ボール素材が使われており、独特の活字のデザインはサイモン・ジョンストン、マーク・ホルトとハミッシュ・ミューアのコラボレーションであるデザインスタジオ、8voによるもので、さらに、 Henri Matisse(アンリ・マティス)の「Trivaux Pond」の絵画カードが張り付けられた斬新なデザインでした。

 

有効期限切れのパンク・ロック

独自のサウンドを確立したドルッティコラム。
しかしその方向性はブライアン・イーノエリック・サティなどと比較され、アンビエント・ミュージックやヒーリング・ミュージックとして解釈される部分もあります。

しかし頑ななまでのその姿勢の根源はパンク・ロックにあります。

ドルッティコラムは現在進行形のパンク・ロックそのものなのかもしれません。

――今後も音楽産業と対峙していくつもりですか?
「この5年間がそうだったように、これからも、その基本ポリシーは変わらないだろう。
人の好みさえもコントロールし、金を儲けることしか興味のないビジネスマンが、それを操っているかぎり、事態は進展しない。
最初の6ヶ月しか有効でなかったパンクは、嫌悪感だけを残した。
僕らの求めたアナーキーな理想、そして、僕がそこで感じた不安や絶望を解明するためにも、この方法は続けていくつもりだ。
僕らの持つ「静」のイメージから、これを現実逃避だという人がいるのも知っている。
ただ、僕らは馬鹿げたスター・システムから、最も離れた存在でありたいんだ。」
FOOL’S MATE 1984年3月号掲載 ヴィニ・ライリーインタビューより抜粋
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