In Birmingham
The Lilac Time(ザ・ライラックタイム)。
1986年に、Stephen Duffy(スティーブン・ダフィー)を中心に結成されたイギリスのバンド。活動休止やメンバーチェンジがありながらも現在もアルバムをリリース。
そのアコースティックで柔らかなサウンドは、触れた者を虜にする不思議な魅力があり、他に類を見ない孤高のバンドです。
ザ・ライラックタイムを語る上で、重要かつ外せないのが前述したスティーブン・ダフィー。
1960年にイギリス、バーミンガムに生まれました。
1979年、バーミンガムシティ大学在学中にジョン・テイラーとニック・ローズと出会い
Duran Duran(デュラン・デュラン)を結成します。
このDuran Duran(デュラン・デュラン)は1980年代に活躍し、その華やかなルックスとシンセを取り込んだポップなサウンドで、日本ではアイドルグループのように取り扱われていました。
が、その音楽性はニューウェーブの流れを引き継いだニューロマンティック(New Romantic)ムーヴメントの先導的なものであり、当時のMTVの火付け役となったグループでもありました。
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しかし、その成功を納めたDuran Duranのメンバーに“スティーブン・ダフィー”の名はクレジットされていませんでした。結成初期のメンバーであり、ヴォーカル、ベース、のちにはドラムを担当したりしていましたが、結成わずか半年後に、大学を退学するのと同時に脱退してしまいます。
その後スティーブン・ダフィーは新たなバンドを結成したり、ソロアーティストとしてなど様々なスタイルで音楽活動を続けるも、納得がいくものでは無かったようです。
デュラン・デュランの初期メンバーと謳われる事も多く、その比較対象とされることや、成功を納めたデュラン・デュランへの対抗意識もあったのか、そのサウンドは模索を繰り返す事になりました。
それは、あたかも“デュラン・デュランの亡霊”に憑りつかれたかのように。
Starting from Herefordshire
その後1986年スティーブン・ダフィーは兄のニック・ダフィー、友人のマイケル・ウエストンとともに、イギリス、ヘレフォードシャー州で新たなバンドThe Lilac Time(ザ・ライラックタイム)を結成しました。
都市部郊外に位置するヘレフォードシャー州は、昔から豊かな農耕地帯でイギリス原風景が残るのどかな場所です。そんな地を新たなバンドのスタートした彼等(主にスティーブン・ダフィー)のサウンドは今までの志向とは正反対のものでした。
THE LILAC TIME (1987)
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- Black Velvet
- Rockland
- Return To Yesterday
- You’ve Got To Love
- Love Becomes A Savage
- Together
- The Road To Happiness
- Too Sooner Late Than Better
- And The Ship Sails On
- Trumpets From Montparnasse
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アコースティックを中心としたサウンドは英国トラッド~フォークを彷彿とさせメロディーも秀逸。
良質な楽曲が収録されています。
スティーブン・ダフィーのヴォーカルも憂いを帯びながらも柔らかく、このアルバムを印象付けています。
冒頭1曲目の「Black Velvet」ザ・ライラックタイムの代表曲であり、名曲です。
アコースティックで繊細な響きが心地良く、彼等の長いキャリアの方向性を示した記念すべき始まりの1曲です。アルバム全体を通してみると、イギリスの緑豊かな牧草地帯や果樹園が広がる場所を旅しているような感覚に誘われます。
そんな意味ではヘレフォードシャー州で結成されたということはもともと予定されていた状況の一つだったのではないかなどと、勝手な憶測をしてしまいますが。
Paradise Circus(1989)
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- American Eyes
- The Lost Girl In The Midnight Sun
- The Beauty In Your Body
- The Stars Shine Tonight
- The Days Of The Week
- She Still Loves You
- Paradise Circus
- The Girl That Waves At Trains
- The Last To Know
- Father Mother Wife And Child
- The Rollercoaster Song
- Work For The Weekend
- Twilight Beer Hall
前作よりもポップな印象がする2ndアルバムです。
アコースティックなサウンドをベースにホーンセクション、エレキ、バンジョーなど様々な音色が絶妙なバランスで構成されています。
タイトル曲『PARADISE CIRCUS』流浪のサーカス小屋の映像などを想起してしまいます。
そしてこちらが2006年にリリースされたリマスター版のParadise Circusです。
ボーナストラックに加えて、インストルメントの未発表曲を含む全27曲の必聴盤です。
トラッド・フォーク、カントリー、そしてアイリッシュなどの要素が散りばめられていて、
聴き応え十分なおススメのアルバムです。
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(13.までは同様の曲)
Bonus Tracks
14. The World In Her Arms
15. The Queen Of Heartless
Intended Instrumental Album
16. Ponderosa Pine
17. Night Mail/Dirty Armour
18. Shepherd’s Plaid
19. Ounce Of Nails
20. Spin A Cavula
21. Australian Worm
22. On Milkwood Road
23. Night Soil
24. Rubovia
25. Silver Dagger
26. November
27. Paradise Circus (Old Smithy Version)
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Trial and Error
翌1990年にリリースされたアルバム「&Love for All」。
スティーブン・ダフィー独特のビートルズを彷彿とさせるライティング・センスも際立ち、前作よりさらにポップさを増した仕上がりになっています。
&Love for All (1990)
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- Fields
- Fields(Reprise)
- All For Love & Love For All
- Let Our Land Be The One
- I Went To The Dance
- Wait And See
- Honest To God
- The Laundry
- Paper Boat
- Skabaskiblio
- It’ll End In Tears (I Won’t Cry)
- Trinity
- And On We Go
- Fields(Acoustic Reprise)
今回、プロデュースとして迎えられたのはXTCのAndy Partridge(アンディ・パートリッジ)。
当時のブリット・ポップシーンで主流とされていたサウンドを取り入れ、新たな一面、更なる展開を見据えた上での起用でした。
彼等が契約していたのは、メジャーのフォンタナ・レコードでコマーシャル的にも、セールス的にも否が応でも結果が求められるフィールドでした。
加えて、80年代半ばには“かつて”のデュラン・デュランがメジャーで成功しており、やはり比較対象とされるのは避けて通れない部分であったことは否めません。
こういった背景があったためか、ネオ・アコースティックというよりはポップ・ロックに近寄った作品になっています。また、全ての曲をアンディ・パートリッジがプロデュースしたわけではなく全体の半分強の参加にとどまっているので、よく聴くとアレンジなどに違いがみられ、聴き比べるてみるのも面白いと思います。
ちなみにプロデュースのクレジットは
Andy Partridge( アンディ・パートリッジ)
(tracks: 1, 2, 3, 5 ,6, 7, 8, 11, 14),
John Leckie (ジョン・レッキー)
(tracks: 4, 9, 10, 12, 13),
Stephen Duffy(スティーブン・ダフィー)
(tracks: 4, 9, 10, 12, 13)です。
こちらのアルバムも2006年にボーナストラックを加えたリマスター版がリリースされました。
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Return to the Original
そして1991年に発表された「Astronauts」。
この数年を見ると、1年に1枚というハイペースでリリースされています。
一見、順調な制作に見えますが前作は試行錯誤と葛藤の産物だったようでスティーブン・ダフィーはこんな言葉を残しています。
「フォンタナレコードとの契約は、あまりいいものじゃなかった。僕らはコマーシャルな道に走るべきじゃないんだ。」
前作でポップ路線にシフトしたもの、セールス的に満足のいく結果を得られなかったことが一因で、この発言を含め、フォンタナレコードとの契約を解除し、クリエイションに移籍することになります。
当時イギリスで隆盛だったインディーズレーベルの1つだったクリエイション。
制約の多いメジャーにいてもヒットが望めないなら、自由の効くインディーズで自らの音楽を探究する方向を選択するのも自然な流れかもしれません。
Astronauts (1991)
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- In Iverna Gardens
- Hats Off, Here Comes The Girl
- Fortunes
- A Taste For Honey
- Grey Skies And Work Things
- Finistère
- Dreaming
- The Whisper Of Your Mind
- The Darkness Of Her Eyes
- Sunshine’s Daughter
- North Kensington
- Madresfield
サウンド的にはアコースティックな切り口の楽曲が多く、スティーブン・ダフィーの叙情詩的な趣が感じられます。全体的にファーストの「The Lilac Time」に近い感じで原点回帰とも取れるアルバムです。
また、このアルバムから共に活動に携わって来た兄のニック・ダフィーがグループを離れることに。
レーベル移籍、と重なった事もあり、作曲、アレンジ、プロデュースをスティーブン・ダフィーが一人で担う事になった「Astronauts」。そのことが逆に彼の個性を如実に表現したアルバムとなりました。
そしてこのアルバムを機にザ・ライラックタイムは活動を停止する事になります。
「 Lilac」
The Lilac Timeザ・ライラックタイム結成から初期のアルバム紹介でしたが、彼等のサウンドはシンプルで懐古的でありながらも新鮮で色褪せることのない不思議な感覚に満ちています。
ちなみにバンド名引用されている「 Lilac」(ライラック)は花の名前。
その花言葉に「謙虚」という意味があるそうです。