インディーズの逆襲
現存する体制や思想を否定する事で始まったパンク。
過激な言動、メッセージを放ち、その攻撃的なサウンド、スタイルで世界を席巻したパンクムーヴメント。
しかし、過ぎて見れば“否定のための否定”と言われ、既成の予定調和だったとする見解まで現れました。
様々な憶測が囁かれていますが、事実、その影響は後の音楽シーンのみならず、ファッションなど多大なものでした。
そして、その1つが音楽業界の変化でした。
もともと、肥大化した商業的ロックを否定したスタンスを示していたパンクロック。
そしてそれと同意義のアンチ商業ロックの流れを汲んでいたのが、
当時まだ自主制作的なレベルで、マイナーな存在だったインディーズ・レーベルでした。
そして、パンクの終焉と共に新たな音楽シーンの在り方を模索していく中で、
このインディーズが新たな可能性を示唆していました。
より方法論的、戦略的で個々のレーベル・カラーや個性を主張したインディーズ・レーベルが台頭してきます。
その1つがザ・スミスを擁したラフ・トレイドレーベルでした。
そのラフ・トレイド、既にインディーズ・レーベルとしては機能が活発化しており、配給組織網、カーテルを設立したり組織的拡大が顕著でした。
しかしその肥大化の裏側で、経済的困難に陥っていたのも事実でした。
そんな中、83年に契約、登場するザ・スミスはまさにレーベルにとっての救世主でした。
混沌。されど、最高傑作
前作2ndアルバム「MEAT IS MURDER」でその存在感を示したザ・スミス。
翌年の1986年に3枚目となるアルバム「THE QUEEN IS DEAD」を発表します。
UKチャート2位にランクインし、「ザ・スミス最高傑作」と評価されました。
THE QUEEN IS DEAD
出典:https://www.amazon.co.jp
- The Queen Is Dead
- Frankly, Mr. Shankly
- I Know It’s Over
- Never Had No One Ever
- Cemetry Gates
- Bigmouth Strikes Again
- The Boy with the Thorn in His Side
- Vicar in a Tutu
- There Is a Light That Never Goes Out
- Some Girls Are Bigger Than Others
ザ・スミスの典型的な辛辣ながらも、物憂げなニュアンスな4.Never Had No One Ever
上司に辞表を提出する旨の内容の2.Frankly, Mr. Shankly
そして彼らの代表曲とされる6.Bigmouth Strikes Again、
9.There Is a Light That Never Goes Out、
10.Some Girls Are Bigger Than Others などまさに最高傑作といえる名曲揃いです。
初めてザ・スミスに触れる方には分かり易いおススメの1枚です。
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前作より僅か1年後にリリースという早さでバンド活動として順調に見えますが、
実はこの頃から彼等ザ・スミスは渾沌の渦中にいました。
1つは、このアルバムの録音自体は前年度中に完了していたにも関わらず、レーベルであるラフ・トレイドと契約をめぐって紛争中であったため発売が遅れたこと
2つ目は、1985年からのイギリス、アメリカでの過密なツアーによるストレス。その後も続く多忙なスケジュール。
3つ目に、そんな苦境を強いてまで敢行してアメリカでのセールスの不調でした。
そんな状況が続く中、バンドにも過度のアルコール摂取や薬物による問題など不協和音が響き、暗澹たる状況でした。
Smiths to Split
様々な問題を抱えながらも「THE QUEEN IS DEAD」の後に発表したコンピレーションアルバム「THE WORLD WON’T LISTEN」やシングルはセールス的には好調を維持しました。
しかし、根底にあったメンバー間の確執は変わらず、危機的な状況でした。
そして、NME誌に「Smiths to Split」分裂へ向かうスミス。
という記事が掲載され、これをきっかけにジョニー・マ―が脱退する事になりました。
ジョニー・マ―はモリッシーとの確執や解散の理由を、30年以上経た今、こう語りました。
「モリッシーと自分の描く未来像が違っていた。」と。そして、
「解散は運命だった。」と。
Rock’n Roll Standard?
STRANGEWAYS, HERE WE COME
出典:https://www.amazon.co.jp
- A Rush and a Push and the Land Is Ours
- I Started Something I Couldn’t Finish
- Death of Disco Dancer
- Girlfriend in a coma
- Stop Me If You Think You’ve Heard This One Before
- Last Night I Dreamt That Somebody Loved Me
- Unhappy Birthday
- Paint a Vulgar Picture
- Death at One’s Elbow
- I Won’t Share You
ザ・スミス4枚目のアルバムにして最後のアルバムとなった
「STRANGEWAYS, HERE WE COME」。
アルバムの評価は総じて好評であり、今回もUKチャートにランクインしました。
しかしアルバム発売前にザ・スミスはすでに解散しており、録音された“音源”だけが評価されるという本末転倒とも言える現象でした。
そう、遺産だけが一人歩きして行きました。
ロックへの情熱に囚われ逢うべくして巡り会い、
その刹那的な衝動に任せ、音を紡ぎ始めたザ・スミス。
やがて彼等は名声を博し、熱狂的な支持を得るまでになりました。
しかし、生き急ぐかのようなスピードは焦燥、不安、疑惑、嫉妬を生み、
結果、自滅を招いていきました。
まるでロックの教科書のように。
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あとがき
ザ・スミスが解散して30年以上が経ちました。
しかし今尚、その音楽は評価を得て、その再結成を望む声も少なくはありません。
パンクロック以降の混沌とした状況。その独特の時代の中、
その音楽シーンを牽引したザ・スミス。まさに時代を象徴したバンドでした。
2度と戻ることも無く、2度と再現も出来ない “置き去りにされた栄光” を残して。