時代を繋いだ伝説のバンド
THE SMITHS(ザ・スミス)というバンドをご存知の方が、どれ位おられるでしょうか?
簡単にいえば1980年代のイギリスのバンドで、アルバム4枚を残して解散、実質的な活動期間は5年足らずという幻のような経歴。あまり知られてない感は否めないものの、本国イギリスでは当時の若者に熱狂的に指示を受け、後の90年代ブリット・ポップに多大な影響を与えました。
疾走感溢れるリズムに、アルペジオを多用し派手さはないものの、存在感のある硬質なギターが絡み、更にその上にヨーデルのようなボーカルが漂う独特なサウンド。耳に残る音です。
ボーカルのトーンやコードから、暗く陰鬱なイメージが先行するかもしれませんが、歌詞や音を紐解いていくと、彼らがなぜ、熱狂的に受け入れられ支持されたか?なぜ、伝説と言われるか?その所以が見えてきます。
THE SMITHS (1984)
出典 https://www.amazon.co.jp/
- Reel Around the Fountain
- You’ve Got Everything Now
- Miserable Lie
- Pretty Girls Make Graves
- The Hand That Rocks the Cradle
- This Charming Man
- Still Ill
- Hand in Glove
- What Difference Does It Make?
- I Don’t Owe You Anything
- Suffer Little Children
1984年に発表された、ザ・スミスの1stアルバム「THE SMITHS」。
このアルバムが出る以前からそのサウンドと存在感は音楽通の間では評判となっており、発売後UKチャート2位にランクインしたことで、すでに支持層も厚かった事を証明してみせました。
代表曲ともいえる8.Hand in Gloveをはじめ、これぞザ・スミスサウンドの原点とでも言うべき楽曲が怒涛の如く流れ出してきます。
さらにザ・スミスの曲は1曲1曲が短く、コンパクトな楽曲が多いのも特徴です。
無駄を排しシンプルに、ストレートに。
パンクロック 最後の継承者
1970年代半ばにアメリカニューヨークのロックシーンで産声を上げたパンクロック。
ラモーンズやパティ・スミスなどに代表され、そのムーヴメントはイギリスにも飛び火し、1976年に登場するセックスピストルズをはじめ、数多くのパンクバンドが群雄割拠する、
ある種異様な時代を迎えます。
この時期イギリスでは、失業者の増加という社会問題を抱えており、それに不満を持つ若者達の怒り、政府への反抗、そして暴力が過激なパンクロックの言動やファッションとリンクして、一気に拡散したと言われています。
しかしその期間は短く1978年には下火になって行きます。そして、パンクムーヴメントはニューウェーブやオルタナティブといった違う方向性を模索していくこととなります。
そんな中、現れたのがザ・スミスでした。
モリッシーの書く屈折した感情や皮肉を込めたユーモア、社会批判などが不満を持つ若者達に支持されたのです。
一過性と思われ、形骸化したと思われていたパンクロック。
無論、当時のメッセージと全く同じな訳はなく、その主義主張は変化しています。
しかしその根底にある、抗うスピリットを新たな形で提示したのが、ザ・スミスでした。
このスタンスと、“孤高のバンド”と言われた存在感も相まって、最後のパンクロック継承者と準えられました。
THE SMITHS 前夜
ここでザ・スミス メンバー紹介を。
Andy Rourkeアンディ・ルーク(Ba) Mike Joyce マイク・ジョイス(dr)
そしてザ・スミス結成について。
ザ・スミスは1982年にイギリス・マンチェスターで結成。モリッシーとジョニー・マ―との出会いがきっかっけでした。
彼等の出会いはこの結成から遡ること4年前の事で、モリッシーが当時、ファンだったパティ・スミスのライヴを観に行った時に、知人の紹介で知り合ったと言われています。
マンチェスターの労働者階級の家庭に育ったモリッシーは、もともと文学的なタイプで、
ジェームス・ディーンとオスカー・ワイルドを愛する、やや自閉的な日々を送っていました。
後にフリーのライターとして、ニューヨーク・ドールズのファンクラブを立ち上げて会報を執筆したりしていました。
一方、ジョニー・マ―は既に幾つかのバンド遍歴を経ており、ギタリスト兼ソングライティングで名の知られた存在でした。
そしてジョニー・マ―がモリッシーの記事の読者でもあった事も大きな要因となり、
ジョニー・マ―が、モリッシーをバンドに誘い、まずはモリッシーの書く詞に曲を付けるという作業から始まりました。
その後オーディションなどを経てアンディ・ルーク、マイク・ジョイスが加入し、
ザ・スミスが結成されます。
この時期の結成までのいきさつを描いた映画「ENGLAND IS MINE」が今年(2019年)5月に公開されました。
ザ・スミスに至るまでのモリッシーの苦悩や葛藤が等身大で描かれています。
イヤ、そのモリッシーに限らず、1970年代後半~1980年代、その当時の若者のライフスタイル、風潮も反映されていて、ファンでなくても興味深い映画となっています。
その時代を懐古するにも良し、今と変わらぬ葛藤に共感もできザ・スミスを知らない方にも是非お勧めの映画です。
MEAT IS MURDER
そして2ndアルバム。
前述の「パンクロックの精神を継いでいる」という見解を顕著に示した攻撃的な内容でした。
サウンド的には前作に比べてリズムが弾力的になり、硬質なギターも曲によって多彩な表情を見せる様になって来ました。
そこに哀愁を帯びた美しいスローナンバーが加わり、陰影が与えられました。
ただモリッシーの書く歌詞が、軍隊思想の校長を激しく嫌悪した1.The Headmaster Ritualや
女王を揶揄する7.Nowhere Fast、過度の自意識過剰で存在肯定を懇願する8.Well I Wonderなど、彼独自の世界観が展開されていきます。
MEAT IS MURDER (1985)
出典 https://www.amazon.co.jp/
- The Headmaster Ritual
- Rusholme Ruffians
- I Want the One I Can’t Have
- What She Said
- That Joke Isn’t Funny Anymore
- How Soon Is Now?
- Nowhere Fast
- Well I Wonder
- Barbarism Begins at Home
- Meat Is Murder
このアルバムはUKチャート1位を獲得しましたが、菜食主義を示唆していたり、共産主義を唱えたりして政治的な内容だった為、物議を醸しました。
しかし、これら賛否両論を含めてザ・スミスというバンドの存在が認知され、その方向性が確立されたと言っても過言ではありませんでした。
青臭くも 凛とした反抗
ザ・スミス。30年の年を経て振り返って聴いてみると、
なんと青臭く、稚拙な反抗心かと、
こっちの方が恥ずかしく感じてしまったのは何故?
当時あれだけ共感して聴いていたのは、
ただ同時期で似たような自分を投影していたからなのか?
などと色々な事を考えてしまいました。
確かに、子供の屁理屈のような部分も今となっては、時間と共に看過してしまっていますが、
その中には真実も有ります。
過去の否定が未だに肯定に転換できずに、否定のままの部分が存在するということです。
NOはNOって事です。
逆に言えば、全てを分かったようなフリをして、寛大な“オトナ”を決め込んでいる輩には、
まだまだ迎合したくないのはザ・スミスのせいか?
真実を見極めるのに必要なのは、経験や知識ではなく、
“雑音”の無い本能的な直感かもしれません。
それって取り戻せるかな? つづく。