Ronny Jordan(ロニー・ジョーダン)
アシッド・ジャズのパイオニアであり、コンテポラリー・ジャズ・シーンを牽引してきたギタリストです。
2014年51歳の若さで死去。
From wikipedia
その作品はビルボードなどにチャートインする人気ぶりで、グラミー賞のベスト・コンテンポラリー・ジャズ・アルバム部門にもノミネートされました。
死因は非公開とされています。
acid jazz
そもそもアシッド・ジャズ(acid jazz)とは?
1980年代にイギリスのクラブシーンから生まれたムーブメント。
ロンドンやマンチェスターのクラブで、DJによるジャズの選曲で踊るイベントが行われ、これがきっかけとなって派生したジャンルがアシッド・ジャズです。
端的に言えば「踊るためのジャズ」です。
サウンド的には70年代のジャズをはじめ、ジャズ・ファンクやソウル・ジャズなどの選曲から、それらをベースにアレンジされたナンバーに至るまで幅広く取り上げられていきました。
1980年代後半になると、アシッド・ジャズのジャンルが形作られていき、クラブで自作曲を演奏するバンドやアーティストも増え、そのムーブメントは拡大していきました。
1990年代になるとそのムーブメントは終息に向かいますが、逆に台頭してきたヒップ・ホップと融合したり、新たなクラブ・ジャズとして受け継がれます。
一過性とも思われたアシッド・ジャズのムーブメントでしたが、実はその影響の範囲は広く、今日のドラムンベースやブレイクビーツ、ヒップ・ホップやR&Bにも繋がるものと言えます。
そしてロニー・ジョーダン。
彼が脚光を浴びるは1990年代のアシッド・ジャズ。
ヒップ・ホップとのコラボレーションが進展する、その最前線でした。
Ronny Jordan
Ronny Jordan(ロニー・ジョーダン)、本名:Ronald Laurence Albert Simpson。
1962年11月29日 イギリス・ロンドン生まれ 両親はジャマイカ出身。
幼少期から楽器を手にし、12歳の頃には教会音楽に影響を受けつつ、自分の音楽に生かし始めました。
独学で音楽を学んだロニー・ジョーダンでしたが、そのルーツはゴスペルでした。
ゴスペルからメロディー、ハーモニーを学び、何年間も毎週地元の教会で演奏しました。
それがロニー・ジョーダンにとっての“練習”となり、彼の音楽は教会によって育てられたといっても過言ではありませんでした。
そんなゴスペル一辺倒だったロニー・ジョーダンの耳に飛び込んできたのが、ラジオから流れてきたBooker T & The MGs の「Green Onions」でした。
私がそのレコードで気に入ったのは、そのエネルギーとゴスペルの「コール アンド レスポンス」タイプの熱意の両方です。教会で育った私にとって、とても共感できる音でした。
smoothjazzdailyより引用
その後ジャズギターを独学で習得。
その模範となったのはCharlie Christian(チャーリー・クリスチャン)やWes Montgomery(ウェス・モンゴメリー)、Grant Green(グラント・グリーン)でした。
80年代に入るとその音楽志向はゴスペルからジャズへと移行し、ロンドンのクラブで演奏するようになりました。
ポール・ジョンソン、ラヴィーン・ハドソンといったシンガー達と仕事をするようになり、デモテープの編集を行うようになります。
The Antidote
やがてロニー・ジョーダンの演奏は次第に評価を得、1991年アイランド・レコードと契約を結びました。
1992年、アルバム「The Antidote」をリリース。
【1990 年代のアシッド ジャズのクラシック】と呼ばれる名盤の誕生でした。
「The Antidote」 (1992年)
- Get To Grips
- Blues Grinder
- After Hours (The Antidote)
- See The New
- So What
- Show Me (Your Love)
- Nite Spice
- Summer Smile
中でもロニー・ジョーダンを一躍有名にしたのが、シングルヒットしたMiles Davis(マイルス・デイヴィス)の名曲5.「So What」のカヴァー曲でした。
誰もが思いつかなかったクラブ・サウンドとしてのリメイクは当時のジャズ・シーンにも衝撃を与えました。
また1.「Get To Grips」と4.「See The New」ではIG Cultureのラップをフィーチャー。
前述のように1990年代の新たなアシッドジャズの形を象徴するナンバーです。
そしてもう一つ注目は2.「Blues Grinder」。
私が作曲した最初のソウル グルーヴ ジャズ作品です。
smoothjazzdailyより引用
ロニー・ジョーダンにとって原点とも言えるこの曲は、彼がリスペクト、模範としたジャズ・ミュージシャンへのオマージュであり、長年にわたって演奏されるナンバーになっていきます。
また、ギタリストとして知られるロニー・ジョーダンですが、アルバムではキーボード、プログラミングも担当、さらに作曲だけでなく、アレンジ、ミキシング、そしてプロデュースまで手掛けています。
独学の苦労と経験が、かえってロニー・ジョーダンのマルチな才能を開花させたのかもしれません。
アシッドジャズの名盤と言われる本アルバム。
スムーズ・ジャズやコンテンポラリー・ジャズにも通じるそのテイストは、今聴いても何ら遜色のない存在感があります。
An Experimental Fusion of Hip-Hop and Jazz
一方、1993年、音楽シーンにセンセーションを巻き起こしたアルバムがリリースされました。
「ジャズとヒップ・ホップの実験的な融合」
を試みたアルバムで、Jazzmatazz(ジャズマタズ)というユニットによるものでした。
「Jazzmatazz Volume.1」 (1993年)
- Introduction
- Loungin’ Co-producer, Trumpet – Donald Byrd
- When You’re Near Co-producer, Vocals – N’Dea Davenport
- Transit Ride Co-producer, Saxophone – Branford Marsalis Guitar – Zachary Breaux
- No Time To Play Co-producer, Guitar – Ronny Jordan Vocals – Dee C. Lee
- Down The Backstreets Co-producer, Piano – Lonnie Liston Smith
- Respectful Dedications
- Take A Look (At Yourself) Co-producer, Featuring – Roy Ayers
- Trust Me Co-producer, Vocals – N’Dea Davenport
- Slicker Than Most Saxophone – Gary Barnacle
- Le Bien, Le Mal Co-producer, Featuring – MC Solaar
- Sights In The City Co-producer, Vocals – Carleen Anderson Keyboards – Simon Law
Saxophone, Co-producer, Written-By [Co-Written By] – Courtney Pine
このJazzmatazz(ジャズマタズ)、ジャズ・ヒップ・ホップを代表するグループ、ギャングスターのラッパーGuru(グールー)によるソロ・プロジェクトで、ライブ・ジャズ・バンドの演奏と、ヒップ ・ホップのプロダクション、さらにラップを組み合わせたものです。
そして、このアルバムにロニー・ジョーダンもゲスト参加、ギターとプロデュースを担当しました。
こちらがその曲5.「No Time to Play」です。
ジャズとヒップ・ホップの関連性についてロニー・ジョーダンはこう語っています。
アルバム「Off the Record」ライナーノーツより抜粋
自身のマイルス・デイヴィスの「So What」のカヴァーに加え、この「Jazzmatazz vol.1」にフューチャーされたことで、ロニー・ジョーダンは新進気鋭のアシッドジャズのギタリストとして注目されるようになりました。
静かな革命
そして、同1993年、デビューアルバムから立て続けにリリースされたにリリースされたロニー・ジョーダンの2枚目のアルバム「The Quiet Revolution」。
アシッドジャズにおけるギタリストとしてのポジションを確固たるものとするアルバムとなりました。
「The Quiet Revolution」 (1993年)
- Season For Change
- In Full Swing
- Slam In A Jam
- Mr Walker
- The Jackal
- Come With Me
- The Morning After
- Under Your Spell
- Tinsel Town
- Vaston Place (OO AM)
前述のジャズマタズでロニー・ジョーダンをフューチャーしたグールーを、逆にゲストとして迎えコラボした1.「Season For Change」。
リスペクトするWes Montgomery(ウェス・モンゴメリー)をカヴァーした4.「Mr. Walker」。
詩人のDana Bryant(ダナ・ブライアント)のリーディングとコラボした5.「The Jackal」。
またブラジルのアーティストTania Maria(タニア・マリア)の楽曲をカヴァーした6.「Come With Me」など、ピックアップするカテゴリーも幅広く、彼の音楽の多様性を窺い知ることができます。
このアルバムについて、ロニー・ジョーダン本人が、
「全曲をシングル・カットするつもりで作った」
というのも頷ける快作です。
翌1994年ロニージョーダンの楽曲をDJ Krushがリミックスしたアルバム『Bad Brothers』がリリースされ、話題となりました。
「Bad Brothers」 (1994年)
- Jackal
- Shit Goes Down
- Love I Never Had It So Good
- So What
- Season For A Change
- Bad Brother
DJ KRUSH。日本で初めてターンテーブルを楽器として操ったDJとして知られており、現在も国内外で精力的な活動を続けています。
1994年に発表した1stアルバム『KRUSH』が海外から高い評価を受け、一躍人気DJとしての地位を確立しました。
そのDJ KRUSHによるロニー・ジョーダンのリミックス・アルバム。
オリジナルとはまた違ったリミックスで、ロニー・ジョーダンの名を日本に広めたきっかけともなるアルバムです。
Light to Dark
アシッドジャズ・シーンに衝撃を与え、パイオニアとなったロニー・ジョーダン。
1995年には先のグールーのジャズマタズ・プロジェクトのヨーロッパ・ツアーに参加、ジャズからストリートまで幅広くプレイできるギタリストであることを証明してみせました。
そして3年振りにリリースされたオリジナルアルバムが「Light To Dark」。
「Light To Dark」 (1996年)
- Into The Light
- Homage
- It’s You
- The Law
- Fooled
- Closer Than Close
- I See You
- Downtime
- Deep In your Heart
- Laidback
- Light To Dark
- Last Goodbye
1st「The Antidote」に始まるアシッドジャズ、とりわけクラブ・ジャズとしてのイメージが強かったロニー・ジョーダンでしたが、このアルバムでは、メロウでどちらかといえばソウル、R&B色が濃く、スムーズ・ジャズの様相を呈しています。
冒頭いきなりシンプルで重くダークなオープニング1.「Into The Light」で始まり、今までとは違った方向性を感じさせます。
クロスオーヴァーやフュージョン的なテイストの6.「Closer Than Close」や9.「Deep In My Heart」では抑え気味のフレーズでメロウで落ち着いた音を聴かせてくれます。
もちろん、5.「Fooled」 8.「Downtime」のように前作からのサウンドを引き継いでいるナンバーもありますが、どちらかというとアシッドジャズの派手さは抑えられてスタイリッシュにまとめられています。
本アルバムをロニー・ジョーダン本人は
「90年代のアプローチを使った70年代のフィーリング」
と評しており、彼の音楽の本質が垣間見えてきたアルバム「Light To Dark」。
マイルス・デイヴィスの「So What」のカヴァーのインパクトが強すぎたため、賛否両論も多く、過小評価されがちな本アルバムですが、ぜひ聴いていただきたいおススメの1枚。
新たなステージを予感させる転換期のアルバムです。